2008年05月12日

英語版「ブラック・ジャック」が反転印刷されない理由


お馴染みですが、オンラインストアRight Stuf
隔週で配信しているポッドキャストAnime Today
最新エピソード第66回(5月9日)の業界人ゲスト
は、日本人小説家・マンガ家の作品の英語翻訳
をメインに扱っている出版社VERTICALのエデ
ィトリアル・エディター兼副社長であるIoannis
Mentzas氏でした。
英語翻訳マンガにおける、VERTICALの特色は、
他社のように現在の人気作品ではなく、手塚治虫
や竹宮恵子といったマンガ家の、60〜70年代の
名作を扱っている点ですね。
作品を挙げてみると、

手塚治虫作品(日本での連載年)
・「どろろ」(1967〜69年)
・「アポロの歌」(1970年)
・「きりひと讃歌」(1970〜71年)
・「ブッダ」(1972〜78年)
・「ブラック・ジャック」(1973〜1983年)
・「MW(ムウ)」(1976〜78年)

竹宮恵子作品
・「地球へ…」(1977〜79年)
・「アンドロメダ・ストーリーズ」(1980年)

になります。
一応他に、「グイン・サーガ」(栗本薫)と合わせて、
その外伝のマンガ版「グイン・サーガ 七人の魔道
師」(画・柳澤一明)もあります。


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VERTICALからの手塚作品出版で、かねてより不
思議に思っていたのは、いまだに"flipped" ――
つまり、左右反転の左開き印刷になっていることです。
かつてとは違い現在では、ほとんどの日本マンガが、
北米でもオリジナル通りの右開き印刷のままで出版
されているのは、もう説明の必要がないですよね。
VERTICALから出版された最初の手塚作品は2003
年の「ブッダ」なのですが、それ以降ずっと、反転
印刷が続けられているんです(後述の「どろろ」「ブラ
ック・ジャック」を除く)。


現在の北米マンガ出版の風潮に反した、その反転印
刷について、今回のAnime Todayポッドキャストで
Mentzas氏が説明したところをまとめると、確かに
今のアメリカの子供達は、もう右開きのマンガに慣
れてしまっているかもしれない。けれど、VERTICAL
がメインに考えている読者は子供や10代ではなく、
大学生以上の年齢層である。そういった大人層は、
本を右開きで読むことには、まだ戸惑いを感じるか
もしれないし、それを理由に敬遠してほしくないから、
ということになります。


けれど、VERTICALからの手塚作品最新作「どろろ」
(第1巻が08年4月29日に発売)と、今年9月からの
刊行が予定されている「ブラック・ジャック」は、
"unflipped"――つまり、オリジナル通りの右開き
印刷で出版される、とのことなんですね。
「どろろ」については、作品内容がより「少年マンガ」
的であるから、そういう層を対象にするなら、他の
北米マンガと同じ右開きにすべきだろう、という判
断になるそうです。


一方の「ブラック・ジャック」には、大きな理由が2つ
挙げられています。
1つは、主人公ブラック・ジャックの、顔の傷(縫合跡)
なんですね。
誰でも知っている通り、ブラック・ジャックの顔の縫い
目は左側にあります。正確には額から左頬、そして
顎までですね。
左右反転印刷すると、その縫い目も右側になってし
まうのです。
ブラック・ジャックが全く無名なキャラならともかく、
出崎統監督によるOVA・劇場映画は、北米でリリ
ースされていますし、現在iTunesでもオンライン
販売されています。
また鉄腕アトムやサファイヤ(リボンの騎士)などと
並んで、手塚ワールドを代表するキャラクターとして
アイコン化されることも多いですよね。
なので、そんな有名なブラック・ジャックのトレード
マークを、逆にするなんてことは出来ないわけです。


もう1つの理由は、出版コストとスケジュールです。
このVERTICAL版「ブラックジャック」は、今年の9月
から2年がかりで全17巻が、隔月リリースされてい
くスケジュールが組まれています。
反転印刷は、修正などの手間で時間やコストがかか
り過ぎて、VERTICALのような小さな出版社だと、と
ても隔月リリースのペースには合わせられない。
なので、低コストで手早く出版出来る、そのままの
"unflipped"印刷を選択した、というのが、Mentzas
氏の説明になります。
英語版マンガ「ブラック・ジャック」は、1998年頃に
一度VIZ Media(当時Viz Communications)に
よって、2冊ほど出版されましたが失敗に終わって
いますので、今回は成功してほしいですね。


そうそう、VERTICALは英訳版「グイン・サーガ」を
出版している関係で、北米でのライトノベル事情に
ついても少し触れていたんですが、北米でライトノ
ベルの人気が、マンガのようには爆発しない理由と
して、よい翻訳者がいない、ということが、Mentzas
氏によって挙げられていました。
これは想像というか邪推なんですが、まだまだ市場
の確立していない北米でのライトノベル出版では、
そういう腕の良い文芸翻訳者を雇うだけのギャラが
用意出来ないのかも、と思ったり。まあ、卵が先か
鶏が先かという話になってしまうんですけど。


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「乙女はお姉さまに恋してる 櫻の園のエトワー
ル」
(嵩夜あや ファミ通文庫)は、最初の方だけ
読んでみました。
ともあれ奏ちゃんがちゃんとお姉さんになっている
のが嬉しく微笑ましかったり。今回の主役ですし。
それと新キャラの薫子さんからの、「あまり正気の
沙汰とは思えないんだけど」という、学校状況に対
する自虐な指摘も可笑しいといいますか(笑)。
確かに苦労しそうですけど、頑張ってくださいー。
でもまあこうやって、本編終了後も、彼女達の生活
が普通に続いていると確かめられるのは、やはりフ
ァンとしては嬉しいというか、安心ですね。続きがと
ても楽しみです。


posted by mikikazu at 08:25 | TrackBack(0) | 海外情報(北米) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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