かねてよりお世話になっている、Yuriconの
代表Erica Friedman エリカ・フリードマン
さんが、先週の金曜日、生計を立てていた仕
事を失ってしまったそうですね(エリカさんのブ
ログOkazu4月28日付け記事)。ご本人として
は、ある程度予想されていたようですけど。
とりあえず、フリーランス・フルタイムの編集者
を探しているアニメ・マンガ会社の方がおられ
ましたら、どうぞよろしくということです。エリカ
さんは日本語も読めます(同日記事のレビュー
は、日本語のノベライゼーション「エスカレーシ
ョン Die Liebe―新世紀くりいむレモン」だっ
たりしますし)。
こちらでもお役に立てるのなら、ということで、
先日手元に届いていた、Yuriconの出版部門
であるALC(AniLesboCon) Publishingから
の、百合・レズビアンコミックアンソロジー「Yuri
Monogatari 5」の紹介をしてみますね。
「Yuri Monogatari」は、2004年にALCからの
出版が開始されたアンソロジーで、現時点での
最新刊であるこの第5巻が発売されたのは、2007
年11月になります。
このシリーズの特徴であり利点なのは、世界各国
からの、百合・レズビアンコミック作品が集められ
ていることですね。グローバルということですか。
この第5巻に収められている作品は14編で、それ
ぞれのタイトルと作者名・国籍、そしてわかる範囲
でネット上の公式サイトなどを収録順に並べてみま
す。それぞれのサイトで、絵柄などをチェックしても
いいでしょう。
"The Last Day"
(桜井家タキ/日本
同人サークル「桜井家」)
"Vagrants"
(Jessie B/アメリカ・ニュージャージー州)
"Your Hair"
(Niki Smith/アメリカ・オハイオ州クリーブランド
under bridges : the comics of niki smith)
"Until The Sun Rises, Then Sets Again"
(西UKO/日本
漫画同人サークル UKOZ(ユウコズ))
"Emmeline's Cruise"
(Holly Hume/国籍不明・たぶんアメリカ?)
"On the Road Where the White Flowers Bloom"
(桜井家かな/日本
同人サークル「桜井家」)
"Rapunzel"
(Susan Knowles/アメリカ
furikku on deviantART)
"The Everyday Adventures of Two Women in Love"
(Tadeno Eriko/日本)
"Umbrella"
(Althea Keaton/アメリカ?)
"Eternal"
(Lilyshield/カナダ
公式サイトYuriKago)
"Rica 'tte Kanji!? (リカってかんじ!?)"
(高嶋リカ/日本
あおぞらアート公式サイト)
"Love Won"
(Sirk Tani/スペイン
SIRK TANI'S SITE)
"The Beginning of the Beggining"
(北条KOZ/日本
漫画同人サークル UKOZ(ユウコズ))
表紙イラスト
(Kristina Kohli)
海外、とはいってもほとんどが北米の方ですが、
それでも多種多様な、日本国内での「百合」ジ
ャンルにカテゴライズされないような作品まで、
まとめて読めると思います。広い意味での「レズ
ビアンコミック」と考えた方がいいかもしれません。
通底しているのは、「女性同士の恋愛・関係」とい
うテーマで、シリアスからコメディ、日常話からファ
ンタジーまで、物語形式は様々です。ひとつのテー
マを描くのに、マンガ・コミックというフィールドで、
語り口にこれだけ色々なアプローチが有り得ると
いう意味でも興味深いですね。アンソロジーなら
ではの構成です。
個人的なお気に入りを挙げるなら、年齢の差ゆえ
に若い女性との関係進展にしり込みしてしまう、
30代主人公の心の揺れを繊細に描いた「Until
The Sun Rises, Then Sets Again」(西UKO)と、
主人公のPOPPYちゃんが、黒髪のショートヘアで
可愛い「Love Won」(Sirk Tani)ですね。語り口
のテンポもポップで爽快です。
あ、Kristina Kohliさんによる表紙イラストも、
微笑ましい2人の雰囲気がキュートで好きです。
出版形式について、ひとつ指摘しておかなくては
ならないのは、左開きという都合上、日本マンガ
は残念ながら、全て左右反転印刷になっていると
いうことですね。
エリカさんは当初、英語作品を途中の半分まで左
から、そして日本語作品はオリジナルのままで右
から半分まで、という構成も考慮されたそうですが、
そこまで凝るのは濃いファン層以外には面倒くさ
いと受けとめられることも恐れて、全てを左開き
で読むという形にしたそうです。
今は北米でも、マンガ作品はオリジナルどおりの
右開きで出版するのがほとんどですし、日本側か
らすると残念ですが、グローバルな作品構成にす
るという目的上は仕方ないでしょうね。
キャラが2人とも左利きになって箸を使っていた
り、バスが右側通行になっていたりという不自然
さには、日本人読者ならすぐに気づいてしまうで
しょうけれど。
英語も会話文がほとんどですから、読み解きも
そんなに難しくないと思います。
唯一難しかったのは、四コマギャグの「On the
Road Where the White Flowers Bloom」
で、これは四コマ独自のテンポや雰囲気を、読む
こちら側が上手に翻訳解釈出来なかったからだと
思います。オリジナル版で読めば、きっと面白い
作品の筈です。
レイティングは「18+」なのですが、描写的には
日本なら、普通に書店やコンビニエンスストアで
売っているレベル以下なので、まったく「過激」
ということはないと思います。個人的な判断もあ
るかもしれませんが。
というわけで、個人的には読めて、よい勉強に
なると同時に、とても楽しめました。
作品ごとのトーンやクオリティの差ゆえに、エン
ターテインメント商品として、万人にお薦めとは
言えないかもしれませんけれど、「女性同士の
恋愛・関係」という物語テーマに興味のある方
なら、読む価値はあるだろうと思います。
日本のアマゾンからでも購入出来ますので(あ、
在庫は現在1点ですから、それが売れたら輸入
にはまた少し時間がかかるかもですが)、ぜひぜ
ひなのです。