2007年12月29日

「ふたりはプリキュアSplash☆Star」が子供達に支持されなかった理由


いよいよ、東映アニメBBプレミアムによる、最終
話までの配信が開始された「ふたりはプリキュア
Splash☆Star」(公式サイト)は、第42話「お帰り
なさい! 満と薫!!」まで見てみました。


個人的には、引き続き完璧な出来だと思います。
数年に1本あるかどうかの、見ていて全くストレ
スを感じず、あるがままの物語を受けとめるだ
けでいい、幸せな作品体験を満喫していると言
っていいです。
意外に早かった満と薫の帰還ですが、当人達の
心情を考えれば、早くて悪いことは何もありませ
ん。素直に流れ落ちる咲と舞の涙に、ただ感情
移入すればいいレベルに作品が達している嬉し
さがありますね。
満と薫はここで新コスチュームかと思いましたが、
それはまだでした。あれですね、ブライトとウィン
ディとも使い分けられているなら、ブルームとイ
ーグレットの衣装というか装備を、2人に貸すと
いうのは無理なんでしょうか。
……派手過ぎて、2人にはちょっと似合いそうに
ないかもですけど(笑)。
「4人はプリキュア」状態になって、いよいよ終局
に突入する今後のエピソードも、大事に見ていき
たいです。


short_g.gif


巷の情報によれば本放送時、この「SS」は、視聴
率、キャラクター商品のセールス、劇場版の興行
収入といったビジネス面では、かなり不調だったそ
うですね。
メインの視聴者層である子供達に不人気であった
とするなら、いくつか考えられるだろう理由のひと
つは、「子供が子供として扱われているから」にな
るでしょうか。
咲と舞の主役コンビは、とても礼儀正しい中学2
年生の女の子として、ずっと描かれています。
言わなくてはならない状況で、「ありがとう」「ごめ
んなさい」を欠かしたことは、たぶんほとんどない
と思います。
両親や妹・兄との関係は良好だし、義務としての
学業の他にも、ソフトボール・絵画といった、自分
を打ち込める活動も、他人から評価されるレベル
で行っている。
相手や周囲にワガママを言うこともないし、2人の
関係で問題が生じても、まず自分に責任があるの
ではと考える素直さを持ち合わせている。
中学2年生という立場、家庭の中での良き娘、姉・
妹という立場をわきまえ、決して大人ぶらず、その
行動は年相応の範囲から逸脱しない――。
これらの描かれようは、大人の視点から見た時に
は、確かに理想的な子供の姿であり、物語の文体
にも、正しく沿ったものだとは思いますが、子供達
の視点からすると、ここまでのお行儀のよさは、
感情移入するには、少々窮屈に感じてしまうので
は、とも想像します。
子供視点から、プリキュアというスーパーヒロイン
に変身してくれるお姉さんに気持ちを仮託するに
は、咲と舞では完璧過ぎて、逆に敷居を高く感じて
しまうのではないかと。自分達はこんなに立派な
子供にはなれないよーって。


また、作中での親子関係が良好なのは、別に悪い
ことではありませんけれど、そのために、家庭内で、
親の言いつけ・助言は必ず受け入れる良い子と
してふるまわなくてはならないという義務感も、きっ
と億劫に感じてしまうでしょう。
それにそういう努力は、自分が常に親の庇護下、
悪い言い方をすれば、管理下に置かれている子供
に過ぎないという自覚も、強く生んでしまうものです。
理想的な家庭と親子関係を描きたいという意図は
わかりますが、きっと子供はもっと自由で、ワガマ
マが許される、大人に近い立場でいたいと思うの
ではないでしょうか。
だから子供からすれば、理想化された「良い子」の
咲&舞よりも、ちょっとばかり「ダメな子」であって
も、親からも自由でマイペースに振舞え、かつプリ
キュアでもあるという、「Yes!プリキュア5」の夢原
のぞみさんのようなキャラの方が、気楽に気持ち
を託しやすいのでは、と思います。


大人と子供の世界の区別という点でよい比較にな
るのが、共に芸能界との関わりを描いたお話であ
る、「5」第29話「のぞみの一日マネージャー」と
「SS」第38話「アイドル誕生 日向咲!ってマジ!?」
ですね。
「5」では、うららのマネージャーとして誤解されて
しまったのぞみさんが、他のメンバー達の力も借
りつつ奮闘し、立派にマネージャーとしての役目
を果たす姿が描かれています。
リアリティで考えると、まだ中学2年生ののぞみさ
んが、うららのそばにいたとはいえ、周囲の大人
達から、マネージャーとして間違われることはあり
えません。子供のアイドルだから、マネージャーも
子供だと思うわけはないでしょうし。
でも、「5」の世界観では、それは「あり」なんです。
のぞみさんがマネージャーとして、大人と同じよう
に振舞っていいわけですし、普段はドジっ子でも、
ここぞという時は一生懸命頑張る彼女の姿を、子
供達は応援したくなって、気持ちを重ねられるので
はないかと思います。


一方「SS」の方では、芸能界という大人の世界と、
中学2年生の咲と舞の、子供の日常の世界には、
はっきりとした一線が引かれています。咲と舞が
暮らしているのが、芸能界の中心だろう都会から
は距離がある、地方都市だという、背景のリアリ
ティもあります。
ゆえに物語は、咲が芸能事務所の社長にスカウト
されたと勘違いした周囲の騒ぎと、舞の個人的な
心の揺らぎを描くのみで、ラストでも、社長氏と面
会する際の咲には、ちゃんと保護者である母親が
付き添い、まだ「子供」である、咲の立場を伝えて
います。
咲が芸能界デビューしたら――、という想像は
楽しいものでしたが、「SS」の世界観では、それ
は現状、子供にとって夢見るだけの、手の届かな
い大人の世界でしかないという、明確な現実認知
が示されているんですね。
それなりの音楽教育は受けているとはいえ、プロ
としての経験がないかれんさんが、うららのライ
ブにいきなり助っ人参加出来た「5」と、プロの漫
才コンビを目指しているものの、せっかくの芸能
界との関わりがあったエピソードで、実質何も出
来なかった「SS」の健太と宮迫君、という比較も
出来ます。


ずっと見てきて、「SS」は子供達からすると、まだ
子供でしかない自分達の立場を認識させられてし
まうことが多く、子供としての作中の立場に主人公
の咲と舞が満足していることで、背伸びしたい自分
達の不満や夢も仮託しづらい作品、だと感じました。
せっかくのスーパーヒロイン・ファンタジーなのに、
思いのほか、夢を見られる範囲が小さいのです。
作品内リアリティとしては整合性がありますし、そ
ういう意味では丁寧で完璧な世界作りがなされて
はいるんですが、子供が「見たい」と思うものとは、
少し違ってしまったのだろうな、というのが、現時
点での評価になりますね。


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