2007年12月10日

フレデリック・ショットさんの鉄腕アトム・手塚治虫研究本「The Astro Boy Essays」


よいしょっと。
実家(高知県)は、あいかわらずお魚の刺身が美
味しゅうございました。
それはさておき帰省中にやっと読み終えられた
のが、Frederik L. Schodt フレデリック・ショット
さん(公式サイト)の新著「The Astro Boy
Essays: Osamu Tezuka, Mighty Atom,
and the Manga/Anime Revolution」
です。
以前にも紹介しましたが、サンフランシスコ在住
のショットさんは、翻訳家・マンガ評論家であり、
手塚治虫作品の翻訳・研究にも多く携わってい
ます。
その他の作家さんだと、池田理代子(「ベルサイ
ユのばら」)、士郎正宗(「攻殻機動隊」)、富野由
悠季(小説版「機動戦士ガンダム」)などが代表的
になるでしょうか。


この「The Astro Boy Essays」は、故・手塚氏と
も親交があったショットさんが、日本国内外におけ
る「鉄腕アトム」の作品的歴史を、手塚氏の漫画
家としての生涯とも重ね合わせながら語っていく
内容になっています。
ショットさん自身や、フレッド・パッテンさんの著書
などで、手塚作品の解説にそれなりのページが割
かれていた例はありますが、一冊全てを費やして
手塚作品を語った英語の本は、この本が初めてと
いうことになりますし、それだけで意義が大きな研
究書といえます。


何故「アトム」なのかという問いには、「アトム」が
日本国内のみならず、世界的に手塚氏の代表作
とみなされていること、長期間にわたって、様々
なメディアで展開された作品であること、そして膨
大な量である手塚氏の全作品を語るのは(おそら
く今回の出版ボリューム・スケジュールでは)、不
可能であることを挙げています。


170ページ超の本編で語られているのは、各章ご
とに分けていくと、


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「Introduction」
――マンガに出逢った自身の経歴と、この本を
執筆するに至った経緯

1.「A National Icon」
――2003年4月7日の、アトムの「誕生日」を記念
した各企画の紹介をメインに、日本を代表するキャ
ラクターとしての、アトムの現在の人気について

2.「How "Mighty Atom" Came To Be」
――手塚治虫氏の経歴と、アトムが初めて登場した
作品「アトム大使」について

3.「Designing a World」
――マンガ「鉄腕アトム」の世界観・基本設定

4.「Mighty Atom,TV Star」
――テレビアニメ「鉄腕アトム」について

5.「Go,Go,GO Astro Boy!!」
――アメリカでの「Astro Boy」としての放送
のための交渉と、アメリカ側による内容改変に
ついて

6.「An Interface between Man and Robot」
――「アトム」における、ロボットの描かれ方

7.「A Medley of Messages」
――作品内で示されたメッセージ・テーマ

8.「A Complicated Relationship」
――人気作になり過ぎてしまった「アトム」に対する
手塚氏の複雑な思い・89年の手塚氏の死去

「Afterword」
――手塚氏の死後の、「アトム」の扱いと、さらに
作り出されていく新作・スピンオフ(「アストロボー
イ・鉄腕アトム」、浦沢直樹氏の「PLUTO」、香港の
Imagi AnimationによるCG映画。ショットさんは、
Imagi社以前に映画化権を保有していたSONY
PICTURESとの交渉で、通訳を時折担当)


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ということになっています。
手塚治虫研究家の方が読まれたらどう思うか
はわかりませんけれど、素人の僕が読んだ限
りでは、限られたページ数の中で、とても誠実
に、客観的な視点を保ちつつ、「アトム」の歴
史を語ってくれている良書だと思います。
だから、既に手塚氏と「アトム」について詳しい
方にはお馴染みの情報が多いですが、第五章
における、アメリカでの「Astro Boy」としての
扱われ方などは、かなり興味深いと思います。


例えば、よく語られる事実として、「アトム」は
「Astro Boy」のタイトルで、当時の三大ネット
ワークのひとつNBCテレビにより、アメリカで
全国放送された、というものがありますよね。
ショットさんによれば、それはNBCが全国ネッ
トワーク局であることによる、よくある誤解で、
実際には、全米のNBC系列局で「Astro Boy」
が放送されたわけではなく、NBC傘下の配給会
社NBC Filmsが、シンジケーションと呼ばれる
全米各地の独立局と個別に放送契約を結んで
いった、ということになるのだそうです。
それでも、シンジケーション局としては、とんで
もなく好調な視聴率を一時期稼いでいたようです。
1963年10月17日〜11月19日間での、ニュー
ヨーク市におけるシンジケーション局番組でトッ
プの視聴率を記録したことが、当時のVariety
誌に広告記事として掲載されたこともあったとか。


また、手塚氏はアニメ版「アトム」を制作する際
に、海外への輸出のことも考えて、作中では日
本的な、寺や神社の類の代わりに、教会を描か
せたそうなんですが、アメリカではキリスト教の
教会だと、ある特定の宗教に関わるものだけを
映し出すのはマズいということになり、気をつか
ったつもりが、逆に問題視されてしまう、という
ようなこともあったそうです。


ともあれ、そういった色々な逸話も含めて、
真面目な手塚治虫研究本としての第一冊目
としては、十分に合格点をあげられる、とい
うのが僕の評価です。
大学教授のような方の本と違って、英語もわ
かりやすいレベルでしたし。
この本についてのショットさんへのロング・
インタビューは、ポッドキャストAnime Today
第45回
でもたっぷり聞けますので、そちらも
参考にしてください。





posted by mikikazu at 07:59 | 海外情報 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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