重箱の隅をつつくようなことかもですけど、
知っている人も関わっているので、一応
指摘をしておきたいと思いました。
米・フロリダ発のポッドキャストAnime World
Orderが、最新エピソード第85回(1月27
日配信)で話題にしていたので、僕は初め
て知ったんですが、去年から、既に気づい
ていた人も多いかもしれません。
日本政府が月刊で配信している、オンライ
ン英字広報誌のHighlighting JAPAN
というものがあるんですが、その2009年
11月号のテーマは、"The Allure of Japan's
Pop Culture"(日本のポップカルチャーの
魅力)でした。
アニメやマンガ、フィギュア、ゲームといった
日本のポップカルチャー産業と、それらの海
外での人気を伝える誌面の中に、
"Translating the Funnies"(おかしさを
翻訳する)という記事があって、それには、
米・サンフランシスコに拠点を置く、北米最
大手のマンガ・アニメ翻訳出版企業VIZ
Media(公式サイト)の現社長兼CEOの、
福原秀己氏へのインタビューも掲載されて
いたんです。
Anime World Orderのホスト達が問題
視していたのは、「どういった種類のマンガを
VIZ Mediaは出版しているのか?」という
インタビュー冒頭の質問に答えた、福原氏の
発言、
「私達は主に北米地域において、あらゆる
ジャンルのマンガ作品を翻訳して出版して
います。多くは、『ドラゴンボール』『NARUTO』
『らんま1/2』といった、小学館や集英社と
いう、代表的な出版社によってまず日本で
は出版されている作品ですし、また『ブラック・
ジャック』やその他の作品のように、それ以
外の出版社からの作品も扱っていますが」
における、日本では秋田書店から出版され
ている、手塚治虫作品「ブラック・ジャック」
についてのくだりです。
あくまで過去形ですが、VIZ Mediaが「ブラ
ック・ジャック」を出版したことがある、という事
は、けっして間違いではありません。
1998年にまでさかのぼりますけど、VIZ Media
は確かに、2巻だけ「ブラック・ジャック」を当時
翻訳出版したことがあります。
けれど残念なことに、それ以降の巻は出版
されず、出版された巻もやがて絶版となり、
入手不可能な状態が続いていました。
またそれ以前の1995年に、VIZ Mediaが創
刊したマンガ雑誌「MANGA VISION」にも、
「ブラック・ジャック」は掲載されていましたが
(アメリカAmazonに表紙画像がまだ残ってい
ました)、雑誌自体は98年夏に休刊しました。
出崎統氏が監督した、OVA版「ブラック・ジャッ
ク」は、アメリカでは2004年に、今は亡きニュ
ーヨークのCentral Park Media社によって
DVDがリリースされ、その後2007年になって、
iTunesストアでもダウンロード購入出来るよ
うになりましたから、アメリカのアニメ・マンガフ
ァン間でも、「ブラック・ジャック」の認知度は
それなりに維持されていて、原作マンガの出
版再開を求める声はあったんですね。
そして、VIZ Mediaが出版を中断してから
10年が経過した2008年の9月になって、新
たに翻訳出版権を取得した、ニューヨークの
Vertical社(公式サイト)が、アメリカでの英
語版「ブラック・ジャック」の出版を始めました。
Vertical社は、既に手塚治虫作品「ブッダ」
「きりひと讃歌」「アポロの歌」「どろろ」の英
訳出版を手がけていて、定評を得ていました
から、その流れを受けての、「ブラック・ジャッ
ク」出版成立だったのだと思います。
このVertical版「ブラック・ジャック」はセール
スも好調で、単行本全巻の出版が予定され
ています。
Anime World Orderの指摘はつまり、
自分達がずっと昔に絶版にして、現在は他社
が出版している「ブラック・ジャック」を、最新の
インタビューで、さも自分達の会社の代表作
のように社長氏が語るのはおかしい、というこ
となんです。
そこには、ずっと絶版にしておきながら、という、
「ブラック・ジャック」ファンとしての、VIZ Media
に対する感情的反発もあるでしょう。
「ブラック・ジャック」を含む手塚治虫作品の、
ここ数年におけるアメリカでの再評価の動きに
は、Verticalの貢献が大きいのですが(2009年
に入ってからは、VIZ Mediaによる「PLUTO」
出版も影響しているでしょう)、その事実を、
他でもない日本政府広報に掲載された、今回
のインタビューによって、間違って解釈して欲し
くない、という願いだと思います。