昨日辺りから、アメリカのアニメファンダムで
一番語られている話題のひとつが、「黒神
The Animation」(日本公式サイト)の、ブル
ーレイの仕様についてですね。
初めて日本・韓国・アメリカのテレビ局で、
各国語の吹替版がほぼ同時に放送された
(2009年1月〜6月)ことで話題を集めたこ
の作品、既に日本ではDVD・ブルーレイの
リリースは始まっています。
当初はアメリカでも、テレビ放送と同様に、
日本(第1巻が5月26日)とほぼ同時進行の、
6月中旬頃に、DVD第1巻の発売が予定さ
れていたんですが、中止になっていました。
それが10日になってあらためて、アメリカ
でのリリース元であるBANDAI ENTERTAINMENT
(公式サイト)から、DVD・ブルーレイ双方の
リリース予定(2010年2月9日)についての
詳細が発表されたんですね。
Mania.com 2009年11月10日付け記事
"Bandai Announces February Titles"
それによると、まず8話収録で二枚組だっ
たDVDは、6話収録の一枚に仕様が変更。
全体で3セットの予定が4セットになり、価格
も39.98ドルから29.98ドルに下げられて
います。音声は、日本語と英語で、英語字幕
も付きます。
問題とされているのは、ブルーレイの方で、
一枚に4話収録の6セットの予定で、価格も
24.98ドルと安いんですが、音声は英語しか
収録されないんですね。日本語・韓国語音声
トラックは含まれません。
Mania.comの記事を書いたChris Beveridge
氏は、これは権利問題が原因ではないだろ
うかと指摘しています。
日米でリージョンが違うDVDになら、日本語
音声は収録出来ても、日米で同じブルーレイ
の場合は、問題が発生してしまうのでは、と
いうことですね。
もっとも、ファンダムの多数を占める反応は、
より安い価格設定になるアメリカからの逆輸
入を恐れての、日本側からの判断ではない
か、というものです。
日本版「黒神」ブルーレイは、定価7350円だ
った通常版の発売が中止になったために、
現在手に入るのは、3話収録で定価9240円
の限定版のみです。
このブルーレイには、日本語・英語・韓国語
の音声トラックが収録されています。DVDの
方は日本語だけだと思います。
日本Amazonだと、売価は7319円になって
いますが、おそらく売価は20ドル程度になる
だろうアメリカ版ブルーレイの、約4倍という価
格ですね。
3話収録で売価7319円の日本版ブルーレイ
と、4話収録で売価20ドル(約1790円)程度
のアメリカ版ブルーレイ。
もし仕様が同じなら、送料がそれなりにかか
るにしても、日本人でもアメリカ版ブルーレイ
を選んでしまうことを恐れたゆえに、アメリカ
版ブルーレイには、日本語音声トラックを収録
しなかったのでは、という推測です。
逆に、ブルーレイで日本語音声を聞きたいアメ
リカのファンは、4倍の価格の日本版ブルーレ
イを購入するしかないわけで、とても無理だと
いう意見がほとんどです。
過去にも同じことがあったと引き合いに出され
ているのは(例・ブログSubatomic Brainfreeze
11月10日付け記事)、同じアメリカBANDAIに
よる、「機動戦士ガンダム」(ファースト・ガンダ
ム)DVDの件です。
アメリカでの「ファースト・ガンダム」テレビシリー
ズのDVDは、2001年8月から発売が開始され
ていたんですけど、DVD・VHSテープ共に、収録
されている音声は英語吹替のみでした。
日本でのDVDリリースは、ずっと遅れて、結局
2007年6月に実現するわけですが、アメリカ版
に日本語音声が収録されなかったのは、その時
まだDVDを買えない日本のガンダム・ファンが、
アメリカ版DVDを輸入購入することを恐れたか
らでは、と今でも囁かれています。
ただしこの件に関しては、他でもない富野由
悠季監督が、アメリカで公式に理由を説明し
てもいます。
アメリカでの「ファースト・ガンダム」DVDリリ
ース後の、2002年8月31日〜9月2日に、
ニューヨークで開催されたコンベンション
Anime Expo New Yorkにゲスト参加して
いた富野監督に、ファンがアメリカ版DVDに
日本語音声が収録されていない事に関する
質問をしたんですね。
富野監督の答えは、現存している「ファースト・
ガンダム」のオリジナル・トラックは状態が悪
過ぎて、とても今のDVDに収録出来るもので
はないから、というものでした。
ソース・Anime Jump 2002年記事
"What is GUNDAM? The Yoshiyuki Tomino
Interview"
やりとりをそのまま訳すと、
質問
「私の質問は、アメリカのたくさんのガンダム・
ファンを代表するものだろうと思います。
『ファースト・ガンダム』の日本語音声を手に入
れられない理由については理解しているつもり
です。それは、日本ではまだ発売されていない
からですよね。
でも、近い将来に日本でも発売されるようになる
としたらその時は、オリジナルの音声・音楽をそ
のまま収録しますか? それとも、映画三部作で
行ったように、また別の特別なバージョンを再収
録しますか?」
富野監督
「『ファースト・ガンダム』の時に収録された録音
の音質は、今の耳で聞くと、とても酷いものです。
それが理由で、最初の映画三部作については、
新たな音楽を加えることも含めて、再録音する
しか仕方なかったんですね。
だからアメリカでは、オリジナルの録音のままの
バージョンが発売される可能性はないでしょう。
再録音せざるを得ないというバンダイの判断に
は賛成しますし、また一方で、多くのファンを失
望させてしまったことも理解しています。
でも本当に、他の方法がなかったのです。申し
訳ないと思っています。Sorry!(英語で)」
大体ですが、こんな感じですね。
その後、オリジナル音声のままの「ファースト・
ガンダム」のDVDが日本でも発売されたことで、
「じゃあ、ニューヨークでの富野氏の発言はな
んだったんだ」とアメリカのファンを困惑させた
ようです。またそれゆえに、「やはりアメリカか
らの逆輸入を恐れたんだ」と確信が深まったん
ですね。
事実としてどうなのかは、今でも知りませんけ
れど(5〜6年が経過して技術が向上し、オリジ
ナルの録音をかなりクリアにレストア出来るよ
うになった、という可能性はないでしょうか)、
それがアメリカのアニメファンダム内での一般
認識だとしていいと思いますし、今回の「黒神」
の件でも、まずそういう反応が返ってきたわけ
です。
最新作である「黒神」については、録音の音質
の問題はないでしょうから、アメリカ版ブルーレ
イに日本語音声を収録しない判断には、別の理
由があると思います。いずれ、なんらかの説明
があるでしょうか。
<追記>
Anime News Network 11月10日付け記事
の追加文章によると、BANDAIからのコメントと
して、「BANDAIからの『黒神』のブルーレイの
リリースには、日本語音声の権利までは与えら
れていなかった」と伝えられています。
やはりDVDとブルーレイでは、そういった契約
の形も異なってくるんでしょうか。