2009年10月17日

ファンサブによるアニメ作品レビューについての、北米ニュースサイトAnime News Network編集者氏からの説明


当ブログ10月5日付け記事で、北米の大手
ニュースサイトであるAnime News Network
(以下ANN)が、北米で未ライセンスの、つま
り字幕付きで見ようしたら、違法なファンサブ
を利用するしかないと思われる作品を含む、
秋期新作アニメのプレビュー企画を進行して
いることが、問題視されているとお伝えしまし
たよね。


Twitterの方でも既報でしたが、その企画の
担当編集者であるZac Bertschy氏が、情報
サイトAni-Gamersが配信しているポッドキャ
ストの第21回
(10月15日配信開始)にゲスト
出演し、ANNによるプレビュー企画に対する
批判に応える形で、企画意図の説明を行って
います。
以下、ファンサブで作品を視聴していることを
否定しない上で語られた、Bertschy氏の主張
をまとめてみます。


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・北米のアニメファンのほとんど全てが、日本
 での放送直後にファンサブでアニメを見てい
 る以上、その現実状況には合わせなくてはな
 らない。

・他に合法手段で視聴するルートが存在しない
 作品の場合、やむを得ない。

・企画の目的は、ファンサブという手段の宣伝で
 はなく、作品内容そのものについて伝えること。
 ダウンロードのためのリンクなども紹介してい
 ない。

・レビューを掲載せず、日本での放送についての
 情報だけでも、結局ファンはファンサブで見て
 しまうのだから、同じこと。

・プレビュー企画を問題視しているのは、わずか
 な人達だけで、ほとんどのアニメファンは企画
 を支持し、毎回期待を寄せている。

・企画が、正規版DVD購入のためのガイドになっ
 たというファンもいる。

・名前は出せないが、たくさんの北米のアニメ業
 界の人からも、「企画を楽しんだ」との反応が伝
 えられている。

・年に2回(春・秋期)、それも、各作品の1話だけ
 なのだから、大きな問題ではない。

・現状のスタンスで、北米のアニメ業界とも良好な
 関係を保っている。ファンサブの1話くらいは、
 現実的妥協の範囲内。

・ANNは日本のアニメスタジオとも親密な関係を
 築いているが、自分は部署が異なるので、詳し
 いことはわからない。 

・プレビュー企画のページからの広告収入は微々
 たるもの。メインの収入は、ニュースやエンサイ
 クロペディアのページから。

・ファンサブを利用しているメディアはANNだけ
 ではない。
 AnimeOnDVD(現Mania.com)のフォーラム
 には、ファンサブで見た作品について語るスレ
 ッドが存在しているし、そのページからの広告
 収入を得ている。
 雑誌OTAKU USAにしても、北米でまだ正規リ
 リースされていない作品のレビューが掲載され
 ていたことがある。
 ファンサブを利用せずに、アニメ関連のメディア
 を運営するのは、現実的に無理。

・個人的には、ファンサブでアニメを見るのは大
 嫌い。全ての作品が、日米で同時配信される
 日を夢見ている。


short_g.gif


という辺りになると思います。
担当編集者であるBertschy氏の側のスタンス
が明確にされたことで、さらに議論が発展して
いくと思います。
とりあえず現状としては、ANNは今後も、例え
存在それ自体は違法であっても、ファンサブを
利用したプレビュー企画を、定期的に続けてい
く模様ですね。


short_g.gif


ポッドキャストの会話の中では取り上げられ
ませんでしたが、ファンサブを利用してレビュ
ーを行う上での問題点のひとつは、法的・倫
理的な面以外に、純粋な作品批評という面か
ら指摘せざるを得ない、「アマチュアによる翻
訳で作品を評価するのは、作品に対してフェア
だろうか?」ということだと、個人的には思っ
ています。


日本でも、外国映画について論じる映画評論
家さんはたくさん存在していて、彼らの全てが、
外国語に堪能だというわけではありませんよね。
せめて自分が専門とするジャンルにおいて堪能
であれば、ベストですけど。
そういった人達の鑑賞は、翻訳字幕に頼るもの
になるわけですが、それでも作品批評という行
為が成立・確立しているのは、翻訳家に対する
信頼があるからだと思います。
プロの翻訳家が、可能な範囲で、作品の中の台
詞を正しく伝えてくれているという大前提が存在
しているからこそ、外国映画の批評もまた成立
するわけです。


アニメのファンサブの場合、翻訳しているのは
匿名のアマチュア個人あるいはグループです。
その出来は様々で、時にプロの仕事よりも正確
だと評されることもあれば、ネットに流す速さを
競うばかりに、杜撰な結果になることもあります。
ただ共通するのは、匿名かつアマチュアという
立場で行っている以上、翻訳の出来や道義的な
結果に対して、責任を取る必要がない、というこ
とですね。


日本の映画界でも、プロの翻訳家による字幕翻
訳が批判にさらされることがあります。
それは逆に言うと、それだけプロの仕事には責
任が伴われて然るべきだし、実際ほとんど全て
のプロフェッショナル翻訳家さんは、責任に見合
うだけの仕事をきちんとされていると思います。
されているからこそ、映画評論家も、自分が理
解していない言語で語られる外国語映画につい
て、安心して批評が展開出来るわけです。
それだけの信頼を、アマチュアによる翻訳でし
かないファンサブに寄せていいとは思わないし、
そういったファンサブに頼って作品評価を下す
ことは、作品に対してフェアではないと考えます。


posted by mikikazu at 11:32 | TrackBack(0) | ファンサブ/スキャンレーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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