アメリカのアニメ/マンガ/ゲームの情報・レ
ビューサイトAnime 3000が定期的に配信
しているポッドキャストの最新回である、
シーズン2・エピソード6(10月9日配信開始)
は、"Manga Industry"というタイトルが示
すように、アメリカのマンガ業界・出版状況に
興味がある方には、必聴の内容だと思います。
サイトのオーナーである、フロリダ在住の
Sean Russellさんがホストを務めているこの
ポッドキャストの今回のゲストは、Vertical
Inc.(公式サイト)のマーケティング・ディレク
ターであるEd Chavezさん、TOKYOPOP
(公式サイト)のシニア・エディターである
Lillian Diaz-Przybylさん、そして昨日も記
事をご紹介した、お馴染みManga:about.com
のDeb Aokiさん。
当然のことながら事情について詳しいお三方
によって、アメリカのマンガ出版における、流
通・マーケティング・プロモーション・市場開拓
といった、ビジネスに関わるお話が、1時間た
っぷり聴けます。
まず最初に語られたのが、同じマンガを扱って
いる出版社であっても異なる、TOKYOPOPと
Verticalの主な流通経路です。
前提として、返品の出来る一般書店では、ここ
2年程返本率の上昇が問題となっており、返本
の出来ないコミック専門店でも、コミックと比較
して単価の高いマンガはリスキーだとも思われ、
仕入れにも慎重になっている、という全体状況が
説明されました。
TOKYOPOPの商品の50%以上が売れている
のは、大手の一般書店チェーンであり、Amazon
などのオンラインストアでの売り上げは小さなも
のだとか。
その理由をLillianさんは、TOKYOPOPの出版
しているマンガを読んでいるのは、主にまだクレ
ジット・カードを使えない10代の子供達であり、
親のカードを頼ったりしない限りは、オンライン
ストアを積極的に使うことはないからでは、と解
説します。
一方のEdさんによると、Verticalの場合は、
全く逆とまではいかなくても大きく状況が異
なっていて、Amazonでの売り上げは、とても
大きいそうです。一般書店での扱いは少なく、
Diamond Comic Distributorsを通したコ
ミック専門店の方が大きい。
Amazonでの扱いが大きい理由としては、
Verticalの書籍は小説やパズル・ゲームなど
も含めて購読者の年齢層が高く、クレジット・
カードの所有者が多いこと、オムニバス版(日
本版の単行本数冊分を一冊にまとめたもの)
での出版が多いマンガの場合は単価も高く、
一般書店よりは値引率のいい、Amazonを利
用したがるのではないか、とEdさんは考えてい
るそうです。
続いてはマーケティング。
Lillianさんによれば、正規商品が発売・出版
される前に、ファンサブやスキャンレーション
によってファンダムが構築されてしまっている
アメリカでは、企業や商業広告に対する反感
や抵抗も強く、マーケティングするには、とても
難しい対象だとのことですね。
ファンから搾取していると糾弾されるほどの大
儲けをしているわけでもない、「ほとんどのマ
ンガ出版社の規模の小ささを見れば、アンチ
企業活動なんて、的外れだと理解出来そうな
ものだけれど」というコメントを溜息まじりにさ
れていました。
マーケティングの難しさということで、具体的
に例に出されていたのが、TOKYOPOPの
「学園アリス」(樋口橘)ですね。
ご存知のようにTOKYOPOPの圧倒的な稼ぎ
頭は「フルーツバスケット」(高屋奈月)でした
が、日本では2006年に既に完結しています。
アメリカでは、単行本の出版間隔を広げるな
どの努力も費やしていましたけど、どうやって
も今年2009年には、最終巻である第23巻を
出版しなくてはならなくなり、「フルバ」の穴を
埋めるヒット作が求められていました。
そこで白羽の矢が立てられたのが、「学園アリ
ス」だったんですね。アメリカでの英語版出版
前にも、ポスト「フルバ」として期待する声を、
コンベンションのTOKYOPOPのパネルでよく
目にしましたし(実際に行ったわけではないので、
レポートされている発言を読んだ、わけです)、
プロモーションなども大々的に行われていたよ
うです。
なので、出版開始後は、各種の売り上げランキ
ングも注視していたんですが、まったく売れて
いないというわけではないにしても、とても「フ
ルバ」の地位には届きそうにもない順位でしか、
その姿を見なかったんですね。「フルバ」は新刊
が常に1位を獲得していましたけど、「学園アリ
ス」の場合は、トップ10入りしたようなことは、
まったくなかったと思います。
英語版「学園アリス」は、現在第9巻まで出版
されているのですが、悪い売り上げではないけ
れど、マーケティングに投じた費用に見合う結
果ではなかったという失望を、Lillianさんは、
今回はっきりと認めています。日本側(白泉社)
の期待も満たせなかったと。
「フルバ」クラスのヒットになれば、日本側への
ロイヤリティも大きいでしょうし、当然の期待だ
ったろうとは思います。
逆に、マーケティングにはそれほど力を注がな
かったにもかかわらず、意外な今年のヒット作
となってTOKYOPOPを驚かせたのが、「ブラッ
ディKISS」(古都和子)です。
ニューヨーク・タイムズのマンガベストセラー
ランキングにも、複数回ランクインしていまし
たよね。
考えてみれば吸血鬼ものというジャンルは、
「かりん」「ヴァンパイア騎士」「ロザリオとバン
パイア」といった作品が現在進行形で大ヒット
中であることからもわかるように、アメリカでは
売れ筋なのですから、同じ吸血鬼ものの「ブラッ
ディKISS」が売れても、おかしくはないわけです。
マーケティングが少なかった分、口コミでその
人気が広められたのだろう、というのがDebさん
の推測ですね。
個人的な見解を述べると、「フルバ」の後釜とし
ての「学園アリス」が受け入れられなかったのは、
やはり高校生主人公の「フルバ」から、小学生
主人公の「学園アリス」に、そのままの読者層
が移行することはなかった、ということかもと想
像します。
「学園アリス」も、これはこれで可愛らしい作品
ですけど、小学生の子供のお話ということで、一
度「フルバ」の大人びた洗練を経験してしまった
人には、ちょっと無邪気過ぎるかな、と。
今年6月からやっと始まった、アニメ版の正規
リリース(公式サイト)が、いい意味で影響する
可能性は……どうでしょう。
長くなってきたので以降は端折りますが、
その他語られたのは、
・アニメとのタイアップ、クロス・プロモーション
・アニメコンベンションでの企業ブースに必要な
予算とその効果
・新規マンガ読者の開拓(アニメファンの取り込み)
・日米同時出版・配信の未来
などで、続いてファンから寄せられた質問として、
・学校図書館との関係を活用しているか
・スキャンレーションはすぐにネットに流れる
のに、どうして正規の翻訳出版には、いつも
時間が長くかかってしまうのか
・TOKYOPOPは、何故OEL Manga(非日本人
作家による作品)をプッシュしているか
・TOKYOPOPが紙媒体での出版を打ち切った
作品が、オンライン配信で復活する可能性は
あるか
・どうしてアメリカのマンガ出版社は、もっと広告
を出して宣伝しないのか
・翻訳の際の基準のようなものはあるのか
などに、丁寧に答えられていました。
そうそう、マンガではないんですが、アニメ関連
で、ひとつだけ追記です。
Edさんが、日米での同時出版・配信の話題の時
に少しだけ言及したんですけど、日・米・韓でほと
んど同時放送された、「黒神 The Animation」
(日本公式サイト)という作品についてです。
今ネットで盛んになってきた同時配信で流されて
いるのは、ほとんどみな、オリジナルの日本語音
声に、字幕を重ねたものですが、この「黒神」に
ついては、各国語での吹替版が放送されたんで
すね。
で、Edさんによると、アメリカ側でプロデュースし
たBANDAI ENTERTAINMENTに台本が届け
られるのは、日本でのアフレコ収録が終了した直
後だったんだそうですね。今はネットで送れます
から、文字通り直後なんでしょうけれど。
この送られてくる台本が、日本語のままなのか、
それとも英語に翻訳されているものかはわかり
ませんけれど、仮に後者だとしても、翻訳をその
まま英語吹替には使えませんよね。
何故なら、そのままでは、キャラクターの口パク
に合いませんから。
ADR(additional dialogue recording)に
おいて最も難しい作業のひとつが、この口パク
に合わせて、あらためて台詞を調整することです。
オリジナルの意味から外れ過ぎてはいけないし、
かといって、英語のセンテンスとして、不自然な
切り方になってもいけない。日本語の台詞の長
さと同じ長さで、同じ意味の英語表現が常に見
つかればいいですけど、語学の神様はそんなに
寛容じゃありません。
日本でアフレコが行われるのは……早くても放
送の数週間前でしょうか? それから台本が送
られてきて、必要なら翻訳し、口パクのタイミン
グに合わせて台詞を考案・調整し、そしてキャ
ストを集めて収録し、という作業を毎週続ける
わけです。Edさんが「クレイジー」と言うのもわ
かります。
あ、アメリカのアニメ吹替においては、合理化
もあって、各キャストが個別に、複数話分をま
とめて収録していくのですけど、この「黒神」の
場合は、きっと日本方式の、1話ごとにキャスト
が全員集まるものですよね。そういう点でも、
コストが高くついたと思います。
今後、この吹替版による世界同時配信が普及
するかどうかはわかりませんが、正直、かなり
無理がありそうですね……。