今日はちょっと長めのエントリーですけど、
気長に少しずつお付き合いください。
例えば、日本語Wikipediaにも記述があります
が、英語圏でも、鳥山明氏原作のマンガ「ドラゴン
ボール」を実写化した、映画「DRAGONBALL
EVOLUTION」(09年 監督ジェームズ・ウォン)
は、「製作費1億ドル超の大作映画」という認識が、
公開までに広く伝わっていたと思います。
そのソースは、米TV GUIDEが2008年1月30日
に掲載した、ピッコロ大魔王役のジェームズ・マー
スターズ氏へのインタビュー記事、
"James Marsters on Fame, Family and Life
After 40"
になります。
この、本編撮影開始前に行われたインタビュー
は、マースターズ氏による、「予算は約1億ドル
だって聞いているよ」というコメントを含んでおり、
これを受けて、英語圏ファンダムでは、
「DRAGONBALL EVOLUTION」は、「製作費1
億ドルの映画」という認識が広まっていきました。
1億ドル(約92億6000万円)といえば、「超」は
つかないにしても、ハリウッドでは立派な大作
映画の予算ですよね。
僕個人としては、日本マンガを原作とし、武天
老師役のチョウ・ユンファ以外は、ギャラの高
そうな俳優も出演していない、1本の映画とし
ては高過ぎるので、当初構想が語られていた、
三部作全てをまとめての予算ではないか、とも
想像しましたが。
その後、つい最近の話なのですが、マースター
ズ氏は今年8月21〜23日に、アメリカ・ニュージ
ャージー州で開催されたコンベンション「MONSTER-
MANIA 13」(公式サイト)にゲスト参加し、そこで
のパネルで、「DRAGONBALL EVOLUTION」の
実際の予算は、伝えられている1億ドルではなく、
その三分の一以下の、3000万ドルでしかなかった
と発言しました。
参考記事・
SAIYAN ISLAND 2009年8月27日付け記事
"Dragonball Evolution’s Real Budget"
ソースとされているYouTubeの動画を見ると、
聞き取り難いですけど、マースターズ氏は、
上記インタビューで語ったように、確かに1億
ドルの映画だと聞かされて、メキシコまで撮影
に出向いたのだが、実際には3000万ドル規模
の映画でしかなかった、と語っているようですね。
公開時の「DRAGONBALL EVOLUTION」の
評価は散々でしたよね。公開前から、って話も
ありますけど(笑)。
でもその批判の中には、「1億ドルを費やした
映画にしては酷い」というものもあったかもしれ
ません。
仮に、マースターズ氏の発言が事実を伝えて
いるとしたら、「1億ドルを費やした」という、批
判の前提となっている、事実の認識自体が間
違っていることになり、批判の論理が成立しま
せんよね。実際には、1億ドルを費やしていな
いわけですから。
もし、事前に流れていた情報が、極端な低予
算ではないにしても、中規模の3000万ドルだ
と正確に伝えられていたら、観客の期待のレ
ベルも、「大作の1億ドル映画」ではなく、「やや
控えめな3000万ドル映画」を前提にしていた
かもしれません。
情報の混乱により、1億ドル予算の映画を期
待する目で、3000万ドル予算の映画を見られ
てしまったことが、「DRAGONBALL EVOLUTION」
の不幸のひとつだったとは言えます。
もちろん、不評の原因はそれだけではないで
しょうけど。
もうひとつ例を出しておきたいのが、かねて
より当ブログでは情報をフォローしている、
「仮面ライダー龍騎」の海外向けリメイクで
ある、「KAMEN RIDER DRAGON KNIGHT」
(以下「KRDK」)です。
先日もお伝えした、10月からの日本での放送
開始に合わせて、新たに立ち上げられた日
本語公式サイトにおいて、注目された記述が、
「総製作費20億円の巨費」という言葉ですね。
「KRDK」は全40話ですから、単純に割ると、
1エピソードにつき、5000万円の予算になり
ます。
「龍騎」を含む平成仮面ライダーシリーズの
予算の詳細については、正式に発表されて
いないと思いますけど、一度広く伝わったら
しいのが、「仮面ライダーカブト」における、
「3000万円」という数字ですね。
参考・Yahoo!知恵袋
「戦隊シリーズの制作費と仮面ライダーシ
リーズの制作費を教えてください」
↑での答えにある、「白倉プロデューサーが東
映公式に書いていた」「すぐに消された」という
ことが事実がどうかはわかりませんが、ネット
の他の場所でも見つかる数字ではあるので、
平成仮面ライダーシリーズの予算として、ある
程度認知された数字だろうと思います。ここで
は認知されていることが重要なので、事実であ
るかどうかは別の話になります。
そういう、「3000万円」が平成仮面ライダーシ
リーズの予算だと思っている人にとっては、
日本版から特撮シーンをある程度流用してい
るにもかかわらず、さらに上回る「5000万円」
という予算を投じていると伝えられた「KRDK」
は、贅沢な製作体制にある、ゴージャスな作品
だと想像してしまうでしょうね。
けれど、ここにも、また別の見方があります。
SciFi Japan 2009年2月22日付け記事
"Kamen Rider Returns to US Television!"
には、「KRDK」のプロデューサー兼ディレクター
であるスティーブ・ウォン氏へのインタビューが
掲載されているのですが、この中でウォン氏
は、撮影が終了するまで放送局が決まらなか
った「KRDK」は、低予算体制での製作を余儀
なくされ、1話ごとの予算は、同じ日本の特撮
シリーズをベースにした、「Power Rangers」
のそれの半分を、わずかに上回る程度でしか
なかったことを明らかにしています。
つまり、日本で伝えられている「総製作費20億
円」という情報にしか触れられていない人に
とっては、「KRDK」は平成仮面ライダーシリー
ズをはるかに上回る予算のゴージャスな作品
であり、逆に、英語圏で伝えられている、ウォ
ン氏の発言だけを知っている人にとっては、
「KRDK」は、「Power Rangers」の半分程度
の予算しか費やされていない、厳しい製作状
況の作品に思えるだろうと、それぞれ想像出
来るわけです。
言葉の壁もありますから、前者が日本サイドの
人、後者が英語圏の人に、大きく分けられるで
しょうね。
どちらが正しい・間違っているかは、とりあえず
問題ではなくて、その人が触れている情報の
種類・質によって、作品への評価のスタンスも、
おのずと変わってしまう、という話なのです。
(「Power Rangers」の1エピソードごとの
予算については、35万〜40万ドルという話
がありますが、
ソース・"Images of the U.S. around the
world: a multicultural perspective" by
Yahya R. Kamalipour
その半分とすると、「KRDK」の予算は、約
18〜20万ドル ―― 約1670〜1924万円。
全40話で約6億6800円〜7億6960円です
から、日本公式サイトの言う20億円とは、
かなり違う数字にはなります)
料理の場合、フルコース料理とファースト・
フードだと、材料と手順に必要な予算に合わ
せて払う料金は違っていて、違うことをその
料理の内容の差によって、お客さんは納得し
ますよね。
でも映画だと、どんなに予算が大きい作品で
も、低予算の小品でも、その予算・内容の差
にかかわらず、料金は同じです。
だからお客さんは、料金の高い安いによって、
作品の内容を想像出来ませんし、配給会社も、
「総製作費×億円!」という宣伝文句を多用
して、料金ではわからない、作品の価値の宣
伝に努めるわけです。
ファースト・フードでも満足出来る人がいる
ように、映画でも、製作費の多い少ないが、
作品の価値に直結するわけではありません
が、そういう贅沢さの夢を見させてくれると
いう意味で、僕は「総製作費×億円!」式の
宣伝手法を否定しません。映画は基本的に、
無駄にお金を使って、夢を描くものですから。
ただ、積極的に騙されたい、お祭りに参加し
たいという気持ちの一方で、伝えられている
情報のどこまでが真実なのかということを考
える冷静さも、時にはきちんと持っていたい、
とだけ思います。
【「Kamen Rider Dragon Knight」情報の最新記事】