2009年08月24日

北米のアニメDVDに英語吹替が収録されなくなってきた状況について、声優Stephanie Shehさんとの会話


まず先に。
北米での英語版「崖の上のポニョ」こと
「Ponyo」の、公開二週目の週末成績は、
Box Office Mojoによると、一週目から
32.3%ダウンの242万9000ドルで、順位
は先週の9位から12位へ。
累計の興行成績は、814万ドルに達して
います。
落ち率はそんなに悪くなかったですけど、
この調子だと、英語版「千と千尋の神隠し」
こと「Spirited Away」の1005万5859ドル
は超えそうですが、さらにその上の、日本
アニメ歴代第4位作品「ポケットモンスター
結晶塔の帝王 ENTEI」の1705万2128ドル
には届くかどうか、くらいの位置になるでし
ょうか。
「宮崎作品としては不出来」「『もののけ姫』
『千と千尋』には及ばない」という、米映画
批評界で主流の反応をみると、アカデミーな
どの賞レースによる後押しも、あまり期待出
来なさそうです。


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では本題。
いつもお世話になっているサイト「白い空」
のかざみあきらさんがTwitterで呟いてお
られましたので気づきましたが、北米の情報
サイトAnime News Networkが先週14日
から配信を開始したポッドキャストANNCast
の第二回
(8月21日配信)に、ベテラン声優の
Stephanie Shehさんがゲスト出演して、北米
のアニメ英語吹替業界の、現在の状況につい
て語ってくれていました。
Stephanie Shehさんの代表キャラは、最近
だと、

・井上織姫(Bleach)
・皇神楽耶(コードギアス)
・エウレカ(エウレカセブン)
・朝比奈みくる(涼宮ハルヒの憂鬱)

辺りになりますか?
ポッドキャストのホストは、ANNの創設者である
Justin Sevakis氏、前Answermanとして知ら
れる、Zac Bertschy氏。


今日のところは、番組の13分07秒〜19分27
秒辺りで語られている、アニメDVDから英語
吹替がなくなりつつある現在の状況についての、
お三方の会話の大意を、意訳バリバリで抜き出
してみたいと思います。きちんとした採録じゃな
くてすみません。


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S=Stephanie Sheh
J=Justin Sevakis
Z=Zac Bertschy


Z「ファンから聞こえてくる、最近の大きな不満は、
 北米で発売されるアニメDVDに、英語吹替が
 収録されなくなってきていることだよね。
 テキサス発(FUNimationなど)の作品以外は。
 この件について語っていきたいと思うんだけど、
 北米のアニメ英語吹替業界は、いまどうなって
 いるんだい?」

S「うーん……、どこから始めたらいいかしら?
 原因についてなら、ずっとずっとずーっとさか
 のぼることも出来るし、北米のアニメ業界が、
 過去にマーケティングの失敗をいくつか犯した
 のも事実。
 でも、一番大きい原因は、業界が、タダで出来
 てしまうアニメの違法ダウンロードを無くせなか
 ったことになるでしょうね」

J「Bitorrentを使い放題にしている」

S「そう! アニメはどんどんその人気を高めて
 いるように見えて、メインストリームに向かっ
 ているようだった。そしてメインストリームに
 加わるには、英語トラックの存在は不可欠。
 でも結局はメインストリームには十分に入り込
 めず、ファンもお金を出さなくなってしまった。
 吹替の制作には、字幕よりもずっとお金がか
 かるのに」

J「英語吹替制作には、一エピソードごとに8000
 〜9000ドルくらいの予算がかかるんじゃないか
 って話してたんだけど。それとも1万ドルくらい?」

S「それに答えるのは難しいわね。昔だったら、
 業界の平均みたいな数字もあったけど、予算
 は削られ、どんどん小さくなっていった。
 ついにはもっと安く出来る海外の国で、英語
 吹替を制作させるようにもなってしまったし」

J「シンガポールのODEX社にやらせてみた件だね。
 結果はひどいものだったけど」

S「上手くいかなくてよかったとも思ってるの(笑)。
 ファンが『英語吹替が欲しい』って、不満を伝
 えてくれるのも嬉しいし。そういう要求があれば、
 また私の仕事も増えるものね。
 もし、ファンが本当に英語吹替を欲しかったら、
 DVDを買わなくてはいけないのよ。吹替を収録
 しても、利益が出るビジネスにならなくちゃ」

Z「そこが重要なポイントだね。君の意見として、
 『英語吹替が欲しい!』と訴えているファンの
 声を、DVDをリリースしている人達にまで届ける、
 一番の方法ってなんだと思う?
 買った時のレシートのコピーとか、DVDセットを
 抱えた自分の写真を送って、『こうやって、あな
 たの会社の商品を買っていますから、英語吹替
 も作って!』と伝えるとか?」

S「それはいい考えね。必要だと思ったことは、
 なんでもやってみるといい。
 それと、他のファンや友達を、商品としてのア
 ニメには、ちゃんとお金を払わなくちゃいけな
 いって納得させることも大事かしら。プロデュ
 ーサーに手紙を直接書いて、『英語吹替があ
 るなら、買います』と言うのもね」

J「ちょっと計算してみたんだけど、低めの数字
 で、7000ドルが1エピソード辺りの英語吹替
 制作予算としてみるね。4話を1枚のDVDに
 収録して、25ドルで売ることにする。それで返
 ってくる利益が12ドルだとして、必要な予算を
 引くと、赤字にならない、損益分岐点に届くま
 でに、少なくとも3500ユニットは売らなくちゃ
 いけない計算になる。
 多くのアニメに、英語吹替が必要だという意見
 には賛成だけど、英語吹替を収録して、完全な
 パッケージのアニメDVDを売ろうというのを、
 ビジネスとして成立させるのは、そもそも無理
 な場合が多いんじゃないかな?」

S「北米のアニメ業界が犯した間違いということに
 話を戻すなら、きちんとした利益を上げるリリ
 −スの方法を考えずに、どんどんとライセンス
 をしていった、ということはあるわね。例えば
 Geneonは、少年向けと少女向けという風に分
 けるんじゃなく、購買層が重なる作品を、全く
 同じ週に発売とかもしてた。
 利益の出る数字については――1万くらいという
 のを以前に耳にしたこともあるけど、通常版も
 限定版も合わせたユニットとしての数はわから
 ないし、今では全然違っているかもしれない。
 とにかく、難しいビジネスなのは確かだわ。
 でもおかしいのは、ほら、アニメコンベンション
 に行くじゃない? そこに集まっている参加者
 の数は信じられないくらいにすごいわ。
 だから思うの、もし、コンベンションに参加して
 いる人達が、1人につき1枚ずつでいいから、
 アニメDVDを購入してくれていたら――」

Z「業界は救われるよね」

S「その通りよ!」

Z「声優のパネルはいつだって満員だしね。英語
 吹替のファンがいないっていうわけでは、まっ
 たくないんだ。そこに集まっている人達だけで
 もDVDを買ってくれているなら、それなりの数
 になると思うよ」

J「でも実際には、誰もDVDを買ってはいない。
 それが問題なんだ」

S「それが一番の問題よね。損益分岐点に届く、
 3500ユニットというのは大きな数字かもしれ
 ないけど……」

J「ほとんどのアニメDVDの北米での売り上げは、
 2000ユニットにも届かない」

S「コンベンションに参加している人の数をみたら、
 それよりずっと多そうなのにね……」


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かなり端折った感じになっちゃいましたけど。
8月22日付け記事でも、不況にもかかわらず
増え続けている、アメリカのアニメコンベンシ
ョン参加者数についてお伝えしましたけど、
その衰えない人気がビジネスに反映されてい
ない構造のもどかしさを、現場の人達も強く
感じているようですね。
 

posted by mikikazu at 08:37 | TrackBack(0) | 海外情報(北米) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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