2009年08月20日

議論・スキャンレーション(マンガの無許可翻訳)は、アメリカのマンガ市場の害になっているか


始まったのは少し前からだったんですけど、
もう動きもなさそうなので、まとめておきたい
と思います。
ご存知のようにスキャンレーション scanlation
とは、マンガ作品の台詞を著作者に無断で
各国語に翻訳し、ネット上で配布しているも
のですね。アニメなら、ファンサブになります。
そのスキャンレーションを巡るちょっとした議
論が、1ヵ月ほど前から交わされていました。
スキャンレーションに対しては、それぞれの立
場から、こういう意見が出るという、ひとつの
データとして参考になればと思います。


short_g.gif


ことの起こりは、7月23〜26日に米・カリフォル
ニア州サンディエゴ市で開催されたサンディエゴ・
コミコンでの、出版社Yen Pressのパネルです。
Yen Press(公式サイト)は、マンガ版「涼宮ハ
ルヒの憂鬱」、日韓のマンガ作品を集めた月
刊誌Yen Plusなどを出版していて、7月24日
の午後5時半〜6時半に行われたパネルには、
パブリッシング・ディレクターのKurt Hassler
氏も出席していました。


新規ライセンス作品についての発表などが行
われた後、質疑応答セッションがあったので
すが、そこで、「スキャンレーションがYen
Pressの作品の売り上げに与えている影響は?」
という質問が出たんですね。
採録は、お馴染みDeb Aokiさんによる、

About.com:Manga 2009年8月3日付け記事
"Comic-Con '09: Yen Press Adds New
CLAMP Manga, Tackles Scanlation Questions"


で読めます。
Hassler氏の答えは、ちょっと長くなりますが
引用させていただくと、


「マンガの売り上げに、スキャンレーションが
どんな影響を与えているか答えるのは、実に難
しいですね。これだけの量のスキャンレーショ
ンがオンラインで出回ったから、これだけの数
の正規出版された部数が売れなくなったという
ことを、何らかの数字で証明するのは、ほとんど
不可能でしょう。
確かに、スキャンレーションが作品の認知を広
めてくれていたこともありました。けれど同時に、
セールスを妨げてもいるのです。


スキャンレーションは、著作物の不法な使用に
もかかわらず、『誰かが正規出版してくれてい
たなら、自分達がこのスキャンレーションを作
ることもなかった』と正当化されることがしばし
ばです。しかし結局のところ、所有権のないも
のを不法に利用し、どういう形であれ利益を得
ているに過ぎないのです。マンガ市場にとって、
とても厄介な流れです。同じことは、アニメDVD
の売り上げについてもあります。
これはファンの熱意が、市場にマイナスの影響
を与えている、稀なケースといえます。


マンガ業界の初期においては、スキャンレーシ
ョンも作品の認知を広めてくれるものでした。
けれど今では、ほとんど全ての出版社が同意し
てくれるでしょうけど、我々のビジネスを成長さ
せ、ファンが読みたい本を市場に流通させてい
く上での、妨げになってしまっています」



というものでした。


short_g.gif


このHassler氏の発言に反論したのが、在イギ
リスのブログであるTiamat’s Discipleです。
同ブログ7月25日記事、

"Scanlations kill the manga industry,
according to Yen Press…"


では、特にHassler氏の発言の中から、

・ビジネスを成長させ、ファンが読みたい本
を市場に流通させていく上での、妨げになっ
てしまっています
・ファンの熱意が、市場にマイナスの影響を
与えている、稀なケースといえます。

という言葉に反対を表明します。
運営人本人も、スキャンレーション制作者だ
と認めている、このブログTiamat’s Disciple
の主張を並べてみると、


・自分がマンガと出会えたのはスキャンレー
ションのおかげであり、イギリスの多くのマン
ガファンがそうである。
自分達がスキャンレーションで読んでいるほ
とんどの作品は、未ライセンスの作品なのだ
から、アメリカやイギリスの正規品市場に、
そもそも影響を与えはしない。

・正規出版されている作品でも、クオリティが
スキャンレーションに劣るものがある。

・アメリカで正規出版されたとしても、日本で
の出版からはずっと遅れているし、追いつく
こともない。ライセンスされたからといって、
最新巻・エピソードが読めるスキャンレーシ
ョンを止める理由にはならない。

・そもそもスキャンレーションは無料だから
読んでいるという人は、正規出版されても、
どの道買わないのだから、全ての違法ダウ
ンロードが、売り上げの損失になっている
わけではない。

・出版社自体が、スキャンレーションでの人
気を、どの作品をライセンスするかという指
標として利用しているのだから、スキャンレ
ーションを批判するのはおかしい。

・そもそも、スキャンレーションが、業界にど
れだけの影響を与えているかという、具体
的な証明がされたことはない。

・これまでどの出版社も、スキャンレーション
や違法アップロードに対して、直接抗議したり
対策を講じたことはない。もし問題があるとい
うのなら、行動に移している筈だし、すべきだ。
何故訴えたりしない?



short_g.gif


この記事に対して、コメント欄でも賛成・反対
の意見が寄せられます。
代表的なものをそれぞれまとめると、

賛成意見

・自分も持っているマンガの90%は、スキャンレ
ーションで読めたから、知ることが出来た。

・スキャンレーションも正規出版も、クオリティに
はそんなに差がないのに、正規出版は時間が
かかり過ぎる。

・実際に役立つマンガ事典か情報サイトが完
備されない限り、スキャンレーションを頼るしか
ない。

・スキャンレーションで読んで気に入ってくれ
た人は、その正規版を買ってくれるだろうし、
買わない人はどうあれ買わないのだから、ス
キャンレーションが、セールスの妨げになって
いるということはない。

・スキャンレーションがそんなに問題となって
いるのなら、VIZ Mediaやクランチロールが、
ファンサブに対抗するために、アニメの日本で
の放送との同時配信を始めたような、スキャン
レーションに対抗する努力を出版社はすべき
だ(日本での出版と同時に、外国語翻訳も読め
るようにして欲しい)。

・VIZ Mediaは、「境界のRINNE」の同時配信
を始めているが、アクセス出来るのは北米地域
からだけで、英語圏でもイギリスやニュージーラ
ンド在住の自分達には恩恵がなく、スキャンレ
ーションに頼らざるを得ない。

・書店に置いてあるマンガは、子供達に立ち読
みされてボロボロなので、買う時はオンライン
ストアで買う。オンラインストアだと内容のチェ
ックが出来ないので、スキャンレーションを利
用している。




反対意見

・ライセンスされていようといまいと、他人の著
作物の勝手なアップロードは、ベルヌ条約違反
である。

・そもそも一番悪いのは、他人の著作物を勝
手にアップロードしている人達なのに、どうして
出版社が責任を取らなくてはいけないのか。
その人達の責任をまず問わなくていいの?

・まず無料でスキャンレーションを読んでしまっ
た人は、そのほとんどが、あらためて正規出
版をお金を出して購入したりはしない。



short_g.gif


人気のあるブログでの記事ということで、すぐ
に伝わったのか、影響力を懸念したのか、当事
者である北米のマンガ出版社の人からも、コメ
ントが寄せられました。
やおい作品専門の出版社であるYaoi Press
匿名氏と、アダルトマンガ専門の出版社Icarus
Publishing
の代表Simon Jones氏です。


両者はまず、Tiamatの主張のひとつである、

・これまでどの出版社も、スキャンレーション
や違法アップロードに対して、直接抗議したり
対策を講じたことはない。

を即座に否定します。両者共に、自社ライセン
ス作品の違法アップロードに対しては、何度と
なく抗議・警告を送っており、それが業務の妨
げになっているくらいだと。
Yaoi Pressは、自社の出版物をそのままスキ
ャンしたものがネットに流れ始めると同時に、
その本の売り上げが完全にストップしてしまう
こと、あるコンベンションでは目の前で、「その
本は買う必要ないよ。ネットの×××でダウン
ロード出来るから」と言われたこと、訴えるに
しても、その費用はYaoi Pressのような小さ
な(そして現時点でも負債を抱えている)出版
社が払えるものではないこと、などを説明して
くれました。


そしてIcarus PublishingのSimon Jones氏
は、そのブログ7月27日付け記事でもあらため
てコメントし、スキャンレーションがマンガの認知
を広める役割を果たしたこと、業界人にもスキャ
ンレーションによって、マンガを知った人が多い
ことは認めつつ、例え動機がなんであれ、スキャ
ンレーションは一度ネットに流れたら、ずっと無料
で入手出来る、正規出版作品の違法代用品として
存在し続けてしまうことの問題を指摘しています。
そこまでの責任を、スキャンレーション制作者は
理解していないと。


また、Icarus Publishingの認知度が高まりつ
つある一方で、注文自体は減りつつあることの
原因を、より早く多くスキャンされ配布されてし
まっていることだろうと想像しながら、ファンダム
を敵に回さず、出来れば良好な関係を築き上げ
ていきたいという、難しい心境も吐露しています。




posted by mikikazu at 08:20 | TrackBack(0) | ファンサブ/スキャンレーション | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック
eXTReMe Tracker
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。