先に、いつものThe Japan Timesネタを。
今日7月14日付け英字日刊紙The Japan
Timesの第3面に掲載されていたのが、
"Aso's 'manga museum' plan cool
with Aussies"
という記事で、これは、かねてより話題になっ
ている、国立メディア芸術総合センター計画を、
オーストラリアの人達が支持している、というも
のです。
コメントしているのは、オーストラリア最大の
アニメ流通業者であるMadman Entertainment
(公式サイト)のDean Prenc氏、メルボルン
に拠点を置くマンガコミュニティサイトOzTAKU.com
のビジネス・マネージャーAvi Bernshaw氏、
日本から帰ってきたばかりで、センターが出来
たらぜひ行きたいと語る33歳のNigel Binns氏、
などの方々です。
まあ、アニメ・マンガをモダンな日本文化の代
表と考える若い海外の人達なら、センターの設
立に反対する理由はないですよね。
ちなみに記事内で示されていたのが、オースト
ラリアのアニメ・マンガファンの数は、専門家に
よると約7万人くらいというデータです。
また、Prenc氏によれば、ここ数年アニメ・マンガ
のセールスが落ちている国が世界である一方で、
オーストラリアのそれは、幸いに安定しているそ
うです。同じ英語圏の北米なんかと、なにが違う
んでしょうか。また調べてみたいです。
さて本題。
Manga About.comのDeb Aokiさんがまとめて
くれていたのが、先日のアニメエキスポで、プレス・
業界関係者限定で開かれた、
"Can Manga Be Created in the USA and Be
Commercially Successful?"
と題されたパネルを受けての記事、
"Anime Expo 2009: 7 Reasons Why OEL
Manga Falters in the U.S."
になります。
OEL mangaというのは、original English language
mangaの略で、最初から英語で書かれた、非日本
人作家によるマンガ作品のことです。
一部の作品を除いて、なかなか商業的に成功する
作品が生まれないのは何故か、その理由を考えて
みようという主旨のパネルが、アニメエキスポで開
かれていたんですね。
Deb Aokiさんは、自身のTwitterでこのパネルに
ついて報告し、そこへさらに投稿された、業界関係
者からの意見なども含めてまとめたのが、この記事
になります。
他にAnime News Networkも、同パネルについて
のレポートを掲載していました。
Anime News Network 2009年7月4日付けレポート
"Industry Roundtable, Day Two: Can Manga
created in the US be commercially successful?"
2つの文章を合わせながら、Aokiさんがまとめて
くれた、アメリカでOELマンガが成功しない7つの
理由を、ここでざっと短く引用してみます。
1.日本のマンガ業界には、時間をかけてじっく
りと若いマンガ家の才能を育ていく優れたシス
テムが構築されているが、アメリカのコミック業
界からは同じだけのサポートは得られず、投資
に対する見返りをすぐに求めてくるので、才能が
育つだけの時間がない。
マンガ家さんと編集者さんとの関係は、日本独自の
ものだとは、よく指摘されますよね。そのシステムを
学ぶために、アメリカの出版社から研修に派遣され
ている人もいると聞きます。
2.「日本の、特に週刊連載システムの中では、
マンガ家達はとんでもないページ数のマンガを
生産し続けなくてはならない。その経験量が、
より早いアーティストとしての成長を促している」
たくさんのアシスタントさん達を抱えている日本の
マンガ家と、一人で描いているようなアメリカのア
ーティストを比較しても意味がないという意見もあ
ります。
じっくりとひとつの作品に長期取り組むのがいいか、
読者の反応に素早く対応もしていく連載スタイルが
いいのかは、作者や作品の資質もあるでしょうし。
3.「アメリカ人の新人を育てるよりは、日本の作品
をライセンスした方がずっと安く済むし、リスクも
少ない」
作品によって違いもあるでしょうけど、新人を育て
るコストは、日本から買ってくるのよりも、4倍かか
るという話が出ています。
4.「OELマンガ家達が描きたがるストーリーは、
アメリカの市場では、あまり売れ筋ではない
ジャンルだ」
逆に韓国では、市場規模が日本よりずっと小さい
ために、実験的な作風の作品でも、ベストセラー
になることがあるとか。
5.「そもそも、日本のマンガが備えている特質や
クオリティに達しておらず、オリジナリティにも
欠けた作品を、"manga"と呼ぶのが間違って
いるのではないか」
"manga"と称してしまうと、どうしても日本のマンガ
と比較され、「こんなのはマンガではない」と批判さ
れてしまうのだから、"comic"でいいのは、という考
えですね。
売る方としては、差異化のために"manga"と称した
い面もあるでしょうし、では"manga"が"manga"で
あるために必要なこととは何、という議論になっても
しまいますね。
6.「画力と物語力双方の才能を備えたOEL作家
を見つけるのは難しい」
日本でも、原作者と作画担当が分かれている作品
はたくさんありますけど、"manga"は1人で創らなく
てはならない、みたいな強い共通認識があったりす
るんでしょうか。
7.「プロ・レベルの画力と物語創造力を育てるには
時間がかかるが、多くの若いアーティスト達は、
その前にプロになろうとする」
「バクマン。」を読んで、「高校生でも連載マンガ家
になれる!」と思ったり(笑)。夢を持つこと自体は、
全然悪いことではありませんけど。
日本だと、プロのマンガ家さんのアシスタントにな
って技術を磨き、業界やビジネスについて学ぶこと
が出来ますが(専門学校はどうなんでしょう……)、
コミック・アーティストはいても、そも、マンガ家さん
がいないアメリカでは、技術面は無理ですよね。
日本にまで来られるような人は限られているでし
ょうし……。ウェブコミックなんかも、よい経験には
なるでしょうけど。
他にも、"manga"と呼べるのは、日本人が描いた
ものだけという考えや、日本のマンガは、アメリカ
で翻訳されるまでにアニメ化されていたりして、広
い認知が構築出来るが、アメリカ独自のオリジナル
OEL作品だと、それは期待出来ない、ということも
障害としてあるようですね。