多分今度こそホントに最後の、「Yes!プリキュア5
GoGo!」の、かれんさん×くるみさんなファン小説
の新作が出来ました。
本編終了後しばらくが過ぎた、かれんさんが中等
部3年三学期の、終わり頃のお話、ですね。
お察しの通り、「マリア様がみてる」の「卒業前小
景」を読んでいたら、プリキュアでも書きたいな
と思ったわけです。影響されやすいです(笑)。
プリキュアシリーズでの転入ネタの扱いというと、
「Splash☆Star」の満&薫コンビの場合、いなくな
ったらみんな忘れてしまい、帰ってきたらずっとい
たことになっている、という風に、周囲の人間の記
憶操作がされていて、「GoGo!」の美々野くるみさん
の場合にも、同様の処置が想像出来ます。
ココが先生になったりやめたりまたなったり出来る
のも同様でしょうね。
ただ、それでは都合が良過ぎるというか、面白くな
いので、そんなことが出来なかったら、というお話
なわけです。
かれんさんとミルク=くるみの繋がりについては、
「GoGo!」になってから、「なかったこと」にされて
しまい、だからこそこちらのファン小説で勝手に(笑)
展開も出来ましたが、それもこれで最後です。
「Follow You, Follow Me」
「――くるみ」
驚かさぬよう、出来る限りやわらかく発したかれ
んの声に、くるみは座ったままで振り返った。
かれんの姿を認めて、一瞬だけ瞳を見開くが、
すぐに表情をゆるめて、穏やかな微笑を浮かべる。
「かれん」
「あなたがこの学園にいるなんて、見間違いかと
も思ったんだけど、そうじゃなくてよかったわ」
「ごめんなさいね、私なんかが来ちゃって。少しだ
け、時間がつくれたから」
くるみは、自分の脇に歩み寄ってきたかれんを、
生来の強い光を宿した瞳で見上げながら答える。
「別に謝るようなことじゃないけど……。あなたの
顔が見られて嬉しいわ」
くるみが座っているのは、スリバチ式に席が配置
されている大教室の一番前、窓側の端の席である。
今日の午前の、最後の授業も終わり、生徒達はみ
な、昼食のために、それぞれのお気に入りの場所ヘ
移動している時間だ。
ここは前の時限には使われていなかった教室なの
か、今は他に生徒の姿も見当たらない。
始まった昼休みの喧騒が、遠く聞こえてくる。
かれんもまた、量の多過ぎる弁当箱を手に、いつ
ものように仲間達の待つカフェテリアに向かってい
たのだが、生徒達の流れに逆らうようにして歩いて
いる、サンクルミエール学園の制服姿の、美々野く
るみに気づいてしまった。
最初は、自分を探しているのかとも思ったが、そ
ういう風でもなく、後を追ってみると、1・2年生が
よく使用している、この大教室に、1人で入ってい
った。
最前列の席に座り、何をしているわけでもないそ
のくるみの後ろ姿を、しばらくは入り口付近から眺
めていたのだが、やがて我慢出来なくなって、かれ
んは声をかけることにしたのだ。
あるいは1人でいたかったのかもしれなかったが、
かれんにしても、同じ学園内に他でもないくるみが
来てくれているのなら、ちゃんとその顔を見たかった。
くるみがサンクルミエール学園中等部の制服に身
を包んでいるのを見るのは、ずいぶんと久々のことだ。
以前はいつだったかというと、りんが所属している
フットサル部の大会を、みんなで応援しに行った時だ
ろうか。この学園で、ということになると、さらにさかの
ぼる。
エターナルとの、キュアローズガーデンを巡る騒動
も片付き、パルミエ王国に晴れて国王付きのお世話
役として戻ることになったくるみ=ミルクは、もうサン
クルミエール学園に、美々野くるみとして通う必要も
なくなり、その姿を見せなくなっていた。おそらくは忙
しくて、そんな時間の余裕もないだろう。
だから今日、久々に制服姿のくるみを見つけて、
かれんは驚き、人間違いではとさえ、一瞬思ってし
まったのだ。
くるみは腰を浮かせて移動し、かれんが座ること
の出来る場所をつくってくれた。
ということは、とりあえず自分がいまここにいても
いいのだろうと理解したかれんは、弁当箱を後ろの
席の机においてから、そっとくるみの隣に腰を下ろ
した。
くるみはしばらく何も言わずに、顔を上げて、高い
天井に、あるいはどこでもない宙空に、視線を漂わ
せていた。
急ぎの用があってこの学園に来たのなら、すぐに
自分か、他のプリキュアのところを訪ねていた筈だ。
自分のところにまず来てくれなかったことを、少々
寂しく思いつつも、かれんはただ待った。
やがてくるみは目を閉じると、両手を胸に当て、
大きく息を吸って、ゆっくりとはいた。
「――ふう」
目を開いたくるみは、かれんの方を見て、少しだけ
照れの混じった笑みを浮かべる。
「その、中等部卒業おめでとう、かれん」
そして発した言葉は、かれんの予期していないもの
だった。
「え? あ、ありがとう――。でも式はずっと先だし、
最後の学期試験もまだあるし、ちょっと早いんじゃな
いかしら」
「それはわかっているんだけど」
くるみはまた、かれんの顔から視線をそらす。
かれんは、くるみの気持ちを掴もうと、その横顔を
じっと見つめた。
「かれんはこのまま、この学園の高等部に進むのよ
ね? お医者様を目指しているかれんは、どこか別
の、もっと難しい高校へ行くのかとも思ったけど」
「ここの高等部のカリキュラムも、選択さえきちんと
考えれば、そう馬鹿にしたものじゃないのよ。どのみ
ち、本格的な医学部を設置した高校がこの国にある
わけでもないし。それだけ、自分で頑張らなきゃいけ
ない、と思っているわ」
「かれんは偉いわね」
「自分のことだもの。だから、とりあえずは春になって
も、この中等部の校舎から、高等部のそれに移るだけ。
周りの人達もエスカレーター進学組ばかりだから、そ
んなに卒業、という実感はないかも」
「でも、もう春からは、この中等部に、水無月かれん
という人はいないのね」
「ええ」
くるみの指が、机の上をそっと撫でた。
かれんには結局機会がなかったが、学年が同じ、の
ぞみやりん達となら、この教室で共に学んだこともあっ
たろう。
「――ねえ、かれん。私はどうしてこの学園に、美々
野くるみとしてやって来たのかしら?」
「? それはもちろん、ミルキィローズとしての使命
のためでしょう?」
「もちろん一番にはね。プリキュアのあなた達と目的
が同じなんだから、この学園の生徒になった方が都
合がいいものね。――でも、そのおかげで、私個人の
夢というか、願いもかなったの」
「なにかしら」
「あなた、よ。水無月かれん。私はあなたと一緒に、
同じ場所で、同じ時間を、少しでも多く過ごせるよう
になって嬉しかったの。ミルクとしてこっそりと来ち
ゃったこともあったけど、そんなのじゃなくて堂々と、
あなたと同じ場所にいたかったの。まあ、同じ学年に
までなれなかったのは、失敗だったけど」
「私もミルクがくるみとして来てくれて、嬉しかったわ」
「かれんが一番たくさんの時間を過ごしているのは、
この学園でしょう? どんな風にかれんがここで振る
まっているんだろうって、とても興味があったの。ふふ。
でもあんなに、他の生徒さん達に慕われているとは思
ってなかったわ。ね、かれんお姉さま?」
「! その呼び方は本当に恥ずかしいから、やめて」
かれんは一瞬で赤くなったろう、自分の両頬に手を当
てる。
くるみはそのかれんを、ひどく優しい目つきで見た。
「――私がここで、美々野くるみとして過ごせた時間は
ほんのわずかだけど、とても楽しかったわ。ミルキィロ
ーズのとは全然別の、宝物のような大切な思い出を、
かれんやみんなとたくさんつくれた。
あなた達にとっては、これまで続いてきて、これからも
しばらくは続くだろうこの学園での生活だけど、私にと
ってはあの時だけ。ほんの一瞬だけ、この席に座るこ
とを許してもらった、お客様みたいなものね」
「――くるみ」
かれんはようやくに、くるみの今日の行動の理由に思
いあたる。
「だから今日は――、もう一度だけ、この制服を着て、
この学園に来てみたかったの。私が唯一知っているこ
の中等部に、あなたがまだここにいるうちに、あなたと
同じ空気を感じておきたかったの、かれん」
呟いたくるみの肩に、かれんは思わず自分の手を置い
ていた。
くるみは別の学校に転校したわけではなく、パルミエ王
国の学校に戻ったわけでもないのだから、彼女が卒業式
というものを経験することは、今後ずっとないということに、
かれんは初めて気がついた。自分がすべきことを、考え
る――。
「くるみ。私とこまちの卒業式に、この学園の生徒として、
その制服を着て、いらっしゃい」
驚いた風のくるみは、今日初めて、一瞬だけまっすぐに、
かれんの瞳を見た。だがすぐに、目をそらし、顔を落とす。
「――でも、もう私は、この学園とは関係のない部外者
だし」
「たとえ短い間でも、あなたはこの学園にいて、私達と
同じ時間を共にしてくれた生徒よ。そして私にとっては
誰よりも大切な、可愛いひとつ学年下の後輩。あなた
にも、後輩として、卒業する私達を見送る権利はある筈
だわ」
「かれん……」
「理事長さんに相談してみるわね。話のわかる方だし、
あなたを卒業式に参加させるくらいのこと、きっとなん
とかなる。のぞみ達も喜ぶ筈よ」
「いていいの?」
「いて欲しいの。それともお世話役の仕事はずっと忙し
過ぎて、都合がつきそうにない?」
「……」
「だったら私達の名前を利用してくれていいわ。プリキ
ュア達が、大切なイベントに、どうしてもあなたを招待
したがっている、ということにすればいい。私達で、正
式な招待状をパルミエ王国に送っておいた方がいい
わね。あなたにも、立場があるでしょうし」
「どうして、そこまで?」
「言ったでしょう? 私があなたに、サンクルミエール
学園中等部2年生の美々野くるみに、いて欲しいの。
大切な後輩として、私を見送って欲しいの。わがままっ
て言われても構わない」
くるみの瞳が、潤みで揺れた。その両手に、かれんは
自分のそれを、優しく包むように重ねた。
「どうかしら?」
「――私も本当は、かれんの卒業式に行きたかった。
一生に一度だけしかない、中等部の卒業式で、大好き
なかれんに、『卒業おめでとう』って直接言ってあげた
かった。
でも、私にそんな資格があるかどうかわからなくて――」
「もう一度言うわ、くるみ。私の卒業式に来て。お願い。
あなたのいない卒業式なんて、意味がないの」
「――はい。絶対に行くわ」
くるみはようやくに、かれんの瞳をしっかりと見て、頷いて
くれた。
そして不意にきょろきょろと、周囲に視線をめぐらす。
かれんにもすぐに、くるみのしたいことはわかった。
「誰も、いないわね――」
安心したようにクスリと笑うと、くるみは素早くかれんに
顔を寄せ、小鳥がついばむような、一瞬だけのキスを唇
にする。かれんも目を閉じて、それを受けとめた。
すぐに身体を離したくるみは、自分の唇に指を当てて、
悪戯っぽく微笑む。
「ふふ。生徒会長さんが学園内でこんなことして、いけな
いんだ」
「もう中等部の新年度生徒会役員の引継ぎは終わってい
るわ。今の私は、ただの一般生徒」
「高等部でも、生徒会をやるの?」
「自分の勉強だけに集中したいのが本音だけど、推薦して
くれる人が多ければ、考えなくてはいけないでしょうね」
「人気者は大変ね」
「あら、お世話役としてのあなたを慕っている、パルミエ
王国の人達もたくさんいるって聞いてるけど?」
「私なんてまだまだよ。――って、誰からそんなこと聞い
たの?」
「主にのぞみからね。帰ってくるたびに、いつもとっても
嬉しそうに、パルミエ王国でのあなたのことを、私達に
報告してくれるわよ。あなたがどれだけ頑張っているの
かも」
「――! もう、のぞみったら。そんなこと誰も頼んでな
いのに」
「でも嬉しそうね、くるみ」
「そんなこと全然ありません。余計なお世話よ」
「はいはい。そういうことにしておきます。あなたのこと
を教えてもらえるのは、私も嬉しいけれど。
じゃあ、遅くなってしまったけど、お昼ごはんに行きま
しょうか? みんな、カフェテリアに集まっている筈よ」
「――みんなが」
「そう。お弁当は量もいっぱいあるし、あなたが顔を出し
てくれたら、みんなきっと喜ぶわよ。いつものように、
楽しくお昼を過ごしましょう?」
「――ええ!」
言ってくるみは嬉しそうに、かれんの腕に飛びついたが、
すぐに思い直して離れてしまう。
「学園内だし、あんまりベタベタするのは、さすがによく
ないわよね?」
「それなんだけど」
「なに?」
思い切って、かれんは言うことにした。
「私とくるみのこと、結構有名だったというか、学園の人
達にも、知られていたみたいよ」
「ええ――!?」
「まあ、別に隠していたわけじゃないし、悪いことをして
いたわけでもないんだから、それはそれで構わないん
だけれど」
「かれんがいいのなら、私も別に……」
「クス。あなたが学園からいなくなってしばらくした後、
『私で代わりになるのでしたら……』っていう告白の
手紙を、下級生の女の子達から、ずいぶんとたくさん
受け取ったわ。『今度は私を妹にして欲しい』とかも。
そんなに、1人で寂しそうに見えていたのかしら」
「うわー。今日は驚くことばかりね。かれんにも、私が
ここでいない間に、色々あったのね」
「その話も、ゆっくりしましょうか。――だから」
立ち上がったかれんは、弁当箱を左手で抱えると、空い
た右手を、くるみにまっすぐ差し出した。
「隠すことも恥じることもないわ。あなたが私の手を握っ
ていたいのなら、いつでもどうぞ、くるみ」
くるみは、少しだけ躊躇してから、その手をしっかり握り
しめてきた。先ほどまでの憂いが嘘のような、ぱっとした
満面の笑みを浮かべる。
「ありがとう、かれん。かれんはやっぱり素敵な人ね。
私が好きになるだけのことはあるわ」
「こちらこそありがとう、くるみ。私の手を、ずっと離さ
ないでね」
「当たり前です! 私を誰だと思ってるの? 一生信じ
てくれて、いいんだから!」
くるみの宣言に、かれんは握る手に優しく力をこめて応
えた――。
<END>
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