語」を読了しました。
個人的には、山本さんの御本の中で、一番面白かった
かもしれません。とってもお薦めです。
「実はこの世界は、○○○だった」というネタは大好き
だということもありますし、山本さんも、何度も用いて
いるプロットなんですが、この「アイの物語」のそれが、
一番洗練されていて、面白く読みやすかったと思います。
長編「神は沈黙せず」も同趣向の物語ですが、「アイの
物語」の方が、「神」の視点を噛み砕いて説明してくれ
ていて、もう少し優しい語り口になっています。それこそ、
愛があるといいますか。
「神は沈黙せず」のハードさと、ディテールの怒涛の積
み上げも、それはそれで面白かったですけど。
世界や、それを支える常識が覆る瞬間のカタルシスと
いうものは、フィクションの醍醐味なわけですが、ともす
ると、「この世界がこうなっているのは、実は○○○の仕
業だ」みたいな安直な陰謀論にも傾きそうな現実があ
るわけで、さすがと学会の会長である山本さんですか
ら、そういった人間心理(作中でいうゲドシールド)も、
痛烈な皮肉をこめて描いているのが、逆に心地良かっ
たですね。
真実が明らかになっていくにつれ、どんどんとスケー
ルが広がっていくことに、違和感を与えず納得させて
くれる、SFだからこその、語り口の力を感じられる、
秀作だと思います。読めてよかったです。
続けて読んでいる、90年代の旧作である、「ギャラクシ
ー・トリッパー美葉」シリーズの第1巻「10万光年のエ
スケープ」(92年)は、圧倒的に軽い語り口のドタバタ
ギャグSFなので、頭を切り替えるのが大変です(笑)。
というか、こういうノリが第一の作品は、その時代に合
わせている部分も大きくて、引き合いに出される音楽
が米米クラブとか、ミサイルの爆発音が「ちゅどーん」
な辺りに、それを強く感じたりもしました。
今時のマンガやライトノベルで、ミサイルは「ちゅどーん」
とは爆発しないですよね、みたいな。
会話する巡航ミサイルなどの、馬鹿馬鹿しいお笑い
のノリは、それこそ横田順彌さんのハチャハチャSF
みたいで、上手くいけば面白いんでしょうけど?
(横断歩道が恩返しに来る話とか、電気掃除機が嘘を
つけない話とか、横田さんのハチャハチャは、今思い
返してもスゴかったですね)
山本さんが後書きで引き合いに出している、筒井康隆
さんの作品のような毒は、かなり軽く派手に、人や宇
宙人がバタバタ死んでいく辺りで、挑戦している風な
のはわかるんですけど。