2009年06月27日

「Yes!プリキュア5GoGo!」ファン小説の(たぶん最後の)新作、出来ました。

ここのところ何をしていたのかというと、今頃ですが、
「Yes!プリキュア5GoGo!」の、たぶん今度こそ
ホントに最後になるファン小説を書いてました。まあ、
Never say neverとも言いますけど。
2月11日に書いたお話で、終わったつもりでしたが、
そういえば、りんさんルートのエピローグみたいな
ものは書いていなかったなあとは、心残りだったの
も確かで。
もうファン小説は書けないだろうとも思っていました
けど、幸いに頑張れました。時期は特定していませ
んが、のぞみさん×りんさんルート本編終了後の、
ある日の出来事、くらいでお願いします。


short_g.gif


「Follow You Down」


 「ありがとうございました。失礼します」
 丁寧な手当てと、アイシングなどの治療の説明を
してくれた、若い年齢の女性養護教諭に深く頭を下
げてから、サンクルミエール学園の制服姿の夏木り
んは、保健室のドアを開け、人気の失せた廊下に出る。
 右手には学園指定の薄い鞄を持ち、左肩には先
刻まで着ていて、保健室で制服と着替えたウェアや、
タオルなどが入った、スクエアスタイルの、水色のス
ポーツバッグをかけている。
 夕陽がそろそろ沈んだか、という時刻で、外に面
した広い窓から差し込む光も弱々しい。薄闇が、明
かりの消された廊下の奥から、少しずつ迫りつつあ
った。
 りんは大きく息をはいてから、シップを貼られ、その
上からしっかりと包帯を巻かれた、自分の右足首を
見下ろした。
 上履きを一度脱いで、その場で軽くひねったり、
少しだけ体重をかけてみたりする。
 とりあえず外科病院へ本格的な診察を受けに行く
ほどではない、軽い捻挫だというその足首に、今は
鋭い痛みはないが、やはり無理の出来なさそうな違
和感はある。もっとしっかりとしたサポーターを用意
するかどうかは、明日以降の回復次第だ。
 鞄とバッグを持ち直し、りんはゆっくりと、しんとした
廊下を歩き始めた。誰かに傍から見られても、そう
不自然な歩き方にはなっていないと思えた。
 今日の放課後の、フットサル部の練習の最後に、
大きく転んでしまい、こういう怪我をしてしまった自分
の迂闊さに、もう一度溜め息が出る。
 大きな大会はしばらくない時期だったのが幸いと
はいえ、部員がまだ少ない現状のフットサル部では、
自分1人が抜けても、困ることは多いだろう。
 スポーツ中の怪我は初めてではないし、だからこ
そ違和感程度でも、甘く考えてはいけないと頭では
理解しているつもりだったが、一方で他の部員に対
する申し訳なさが、りんの胸をずっと締めつけていた。
 


 保健室のある棟から、長い渡り廊下を抜けて、一
般教室のある校舎へと、りんは戻る。
 手当てには意外に時間が長くかかってしまったら
しく、既にそれぞれの部活も終わってしまった時刻で、
生徒の姿は全く見かけなかった。校舎内の明かりも、
全て消されている。自分の足音だけが、鈍く響く。
 りんの身体に残っていた、運動による火照りも、ほ
とんど抜けていた。
 汗と土ぼこりにまみれているだろう、自分の短い
くせっ毛の髪を、何度か大きく、りんはくしゃくしゃと
乱暴にかき上げる。熱いシャワーを、はやく浴びた
かった。
 自分の靴を置いてある、生徒用玄関に向かう角を
曲がろうとしたところで、どたどたという大きな足音と
同時に、りんの眼前に飛び出してくる人影があった。
 「――りんちゃん!」
 2つ編みに髪を可愛らしく結んだ、同じサンクル
ミエール学園の制服姿の、瞳の大きなその少女は、
りんの幼馴染みで親友の、夢原のぞみだった。
 ここまでずっと走ってきたのか、息を切らしている。
細い肩が、大きく上下する。
 「のぞみ」
 何故か、なんとなく予想の出来ていたりんは、それ
ほど驚かずに、その名を口にした。
 のぞみの視線は、そのまますぐに、りんの右足首に
向けられた。包帯に気づくと、その瞳が大きく見開か
れ、不安の光でいっぱいに揺れるのがわかる。
 「だ、大丈夫なの?、りんちゃん!」
 「うん。大したことはないって。なんだか大げさに
 してもらったけど。数日無理しなければ、またすぐ
 に、バリバリ部活出来る程度のことだから」
 「でも――」
 出来るだけ冷静に伝えようと努めたりんの説明を聞
いても、のぞみは不安げに、何度もきょろきょろと、
りんの顔と足首に視線をめぐらせる。
 「のぞみこそ、どうして?」
 「あ、今日は私も補習があって帰りが遅くなっちゃっ
 たから、どうせならりんちゃんの部活が終わるのを待
 って、一緒に帰ろうと思って――」
 「練習場に行ったらあたしはいなくて、怪我のことを
 聞かされたと言うわけね」
 「うん。片付けも終わってて、部員のみんなはもう帰
 るところだったんだけど、りんちゃんのことすっごく心
 配してたから、私も気が気じゃなくって、りんちゃんは
 保健室に行ったっていうから、急いで走って戻ってき
 て――」
 「だから大丈夫だって。1人で歩けないようなひどい
 怪我なら、部員の誰かが付いてきてくれただろうし。
 運動部なんだもの、このくらいなら、誰にでもよくあ
 ることだよ」
 「でもでも――」
 それでも不安そうなのぞみに、りんはにっと苦笑して、
その頭を軽く撫でる。
 「心配してくれてありがとう。無理しちゃいけないこと
 くらいは、あたしもわかってるから。今日はもう帰って、
 大人しくする。一緒に帰ろう?」
 「うん! あ、だったらりんちゃんのバッグくらいは、
 私が持ってあげるよ!」
 「いいって――」
 「ダメ! 無理しないって言ったのはりんちゃんだよ」
 「これくらい、別に軽いから」
 「渡すの!」
 りんはのぞみと、軽くバッグを引っ張り合う格好になっ
てしまった。
 親友の子供っぽい強情さに、不意に悪戯心がわいた
りんは、のぞみの力に大きく引かれた風にして、その
場へ転ぶようにしゃがみこむ。右足首に手を当て、「あ
たた……」と大げさな声をあげてみせた。
 「りんちゃん!?」
 のぞみは大きな叫び声をもらし、飛びつくように座り込
むと、りんの両肩に手を乗せてくる。
 「痛いの!? 痛めちゃったの!? ああ、ごめんなさい
 ごめんなさいごめんなさい!」 
 冗談だと笑い飛ばすつもりで、顔を上げたりんは、そ
ののぞみの両瞳が、大粒の涙であふれそうになってい
るのに気づいて、言葉を失った。罪悪感が、ぐさりと胸
を貫いた。
 「ホントにごめんなさい、りんちゃん。うう……」
 「のぞみ……」
 りんは思わず指を伸ばして、その涙をせきとめようと
した。こぼれたのぞみの涙はりんの指を伝い、手の甲を
流れる。
 りんはさらにその手を、のぞみの背中にまわし、何度
か優しく撫でた。額に額を押し当てる。
 「……もう、泣き虫さんなんだから。今のは、ちょっと
 ふざけただけだよ。大丈夫。こっちこそ、ごめんね」
 りんはのぞみの耳にささやいた。寄せた頬が、わずか
にのぞみの頬に触れる。しっとりと、あたたかった。
 「ホントに?」
 「うん。痛くなんてないよ」
 「我慢してない?」
 「してない」
 「――痛いの痛いの飛んでけは、しなくていい?」
 「ふふ。もう、のぞみは――」
 幼い頃の記憶が蘇り、りんは苦笑する。
 ぽんぽんとのぞみの背中を叩いてから、立ち上がろう
とするりんの身体を、のぞみが支えてくれた。
 心配そうな光は、その瞳からまだ消えない。じっとりん
の顔を見つめてくる。
 「それじゃあ――」
 のぞみはりんに身体を寄せたままで、首を曲げ、少しだ
けかがむようにした。
 「――なに?」
 りんには、すぐにはのぞみのしたいことがわからない。
 「肩だよ――、りんちゃん。バッグがいいなら、お家に
 帰るまで、私の肩を貸してあげるから」
 「いや、だから、普通に歩くだけなら問題ないって」
 のぞみは潤みの残った瞳で、りんを見つめ続けた。そ
の光が、引くつもりのない、のぞみの本気の気持ちだけ
を伝えていた。
 「――ででも、その、あたし部活の後だから、汗くさい
 かもしんないし、ずっとくっつくのは――」
 「別にそんなことないけど。それに私、りんちゃんの匂い、
 好きだよ?」
 「! な、なに言ってるのよ!」
 「へへ。照れてるね、りんちゃん」
 「あ、からかってる?」
 「ううん。本当だよ。りんちゃんのことは、なんでもぜん
 ぶ、大好きだから」
 「――あ」
 その、あまりにも正直な告白に、りんは自分の顔が赤
くなるのを自覚する。心臓がどくんと弾む。
 「――ああ、まったくのぞみは」
 りんは観念して、自分の右腕を上げた。
 とんでもなく嬉しそうに微笑んだのぞみは、その腕を自
分の肩に置く。そして左手を、りんの腰にまわした。りん
は鞄とバッグを左肩と腕で持つことになったが、軽いの
で問題はないだろう。
 「よいしょっと――」
 のぞみが背を伸ばすと、思ったよりもずっと近い場所
にその顔がきて、やわらかい髪が、りんの頬をくすぐった。
 背の高さはそれほど変わらないものの、日常的に激し
い運動をしている自分とは違う、のぞみの身体の細さと
やわらかさを、あらためて制服越しに感じる。
 「大丈夫?」
 思わず口に出たりんの呟きに、
 「それはこっちの台詞だよ。りんちゃん、無理せずに、
 私を支えにしてね」
 と、のぞみが答えてくる。
 「甘えちゃって、いいのかな」
 「もちろんいいよ。私、頑張るもん」
 「……よろしくお願いします」
 「じゃあ、せーので」
 身体を寄せ合った2人は、ゆっくりと歩を進め始めた。
 歩くリズムは、すぐに掴めるようになる。それはりんに
は、不思議に納得出来た。
 「のぞみは――、女の子の匂いがするよね」
 知らず、そんな言葉がこぼれる。
 「え? りんちゃんだって、女の子だよ」
 「それはそうだけど。のぞみのは、可愛い女の子の匂
 いっていうか」
 「だったらりんちゃんは、格好いい女の子の匂いだね」
 「どんなのですか、それは――」
 くすぐったい秘めやかなやり取りに、2人はお互いの
顔を見あい、くすくすと笑い声をもらす。



 下足置き場でそれぞれの靴に履き替え、外に出ると、
広いサンクルミエール学園の敷地に、夕闇がおりてきて
いた。
 生ぬるい風が吹き抜け、空の暗さが急速に深まりつつ
ある。やはり他に生徒の姿は見つからない。
 学園指定の革靴の代わりに、部活で使用するシューズ
の紐をゆるめると、包帯を巻いた足も、なんとか収まって
くれた。
 そのりんを待っていてくれたのぞみが、再び身体を寄せ
てくる。
 「痛くなく、歩ける?」
 と訊いてくるのに、「うん、大丈夫そう」と答えると、りん
は今度は自分から、のぞみの肩に手を回し、ぎゅっと抱
きしめていた。「ふふ」と、のぞみは小さな声をもらす。
 りんはしばらく空を見上げて、言葉を探した。
 「……なに? りんちゃん」
 黙ってしまった、そのりんの横顔を、小首をかしげて、
のぞみが見つめる。
 「えっと、なんか気の利いた台詞でも言えないかと思っ
 たんだけど、思いつかなくて」
 「ふーん?」
 「ほら、ずっと前に、言ってくれたことがあるよね。
 のぞみが支えて欲しい時に、必ずそばにいてくれるの
 は、やっぱり、あたしなんだって。そういう台詞みたい
 な?」
 「おー、なるほど」
 「……でも、今こうやって、あたしを支えてくれている
 のは、他の誰でもないのぞみ。世界に1人だけの、
 大好きなのぞみ。あたし達って、ずっとこれからも、
 あたしがのぞみを支えて、のぞみがあたしを支えて
 くれる。そんな関係でいられるのかな。そう、信じて
 ていいのかな。……あたしは、信じていたいけど」
 「りんちゃん――」
 のぞみはゆっくりと、まっすぐに、りんの顔を見た。
 そして、しっかりと頷く。
 「うん! もちろんだよ!」
 「! ありがとう、のぞみ――」
 「ありがとう、りんちゃん。これからもずっとずっと、
 よろしくね」
 返してくれたのぞみの言葉は、りんの胸の中でとろけ、
沁み込み、ずっと失うことのない、心の一部になってい
くかのようだった――。
 「へへ。格好つけ過ぎかもだけど。――じゃあ、帰ろ
 うか。無理せずゆっくりとね。その、2人のペースで」
 「だね! しゅっぱーつ!」
 明るく微笑んでくれる、のぞみの肩を抱く腕にもう一
度力をこめて、りんは自分とのぞみを生み出してくれた、
この世界に感謝していた――。 


               <END> 

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