課題である「エル・カザド」(公式サイト)へ進む前に、
ぜひ見ておきたいと思った作品が、1994年製作
のOVA「卒業〜Graduation〜」全2話になります。
これは、92年に発売された同題の育成シュミレー
ションゲームのアニメ版で、先行して視聴した、
ロボットアニメの番外編OVA「聖羅ヴィクトリー」全
2話(当ブログ感想)が、わりと楽しい出来だったの
で、真面目な本編の方も、チェックしておかなきゃと
考えていました。
なにより、「HEAVENLY BLUE」のりょうさんが、
「この『卒業』というお話は、たった2話で終わって
しまうのがあまりにもったいない(中略)――まさに
佳品中の佳品でした」というくらいに評価されてい
たので、見る価値は確実にあるわけです。
まあ、8年も前に書いた文章をいまさら読まれて引
用されていることを知ったら、きっとまた死ぬほど
恥ずかしがると思うので、このことはご本人には秘
密なんですけど。
15年前の作品であり、ソフトも当時のVHSとLDのみ
で、結局DVDが発売されることもなかったようです
から、現在視聴するには、BANDAI CHANNEL経由
のネット配信だけになるようですね。
僕自身はもう、監督さんや脚本家のお名前を作品
評価の材料にすることはありませんが、第1話「い
つまでも一緒にいられたら」の演出担当は、水島精
二氏(「鋼の錬金術師」「機動戦士ガンダム00」)で、
作中の舞台となる駅の名前がそのまま「水島」なの
は、ちょっとしたお遊びなのかも、とは思いました。
この「卒業〜Graduation〜」という作品を、「ノスタ
ルジア」というキーワードを通して語るなら、大きく分
けて2つの語り方があると思います。
ひとつは、物語内容それ自体が描いている時間に
対してのまなざしです。
卒業を控えて、友人達との別れの寂しさと、未来へ
の期待と不安が入り混じった、人生の中でもその時
にしか感じられない気持ちへの感傷ですね。
まだ未来が確定していないということは、一方で選
び夢見る自由もあるという、未決定だからこその可
能性への想像が許された、幸せな時間への追想と
いえます。
誰もがこういう時間を経験したと感情移入出来る、
普遍的なテーマであるがゆえに、15年を経た今でも、
十分な訴求力を備えたストーリーでいられていると
思います。
また、少しずつ夕闇に沈む地方の駅の描写や、駅長
さんの優しさなども、ノスタルジアの対象としていいで
しょう。
もうひとつの見方は、15年前に作られた作品という、
歴史的立ち位置を通したものですね。
例えば作中で描かれている風俗描写、制服のスカー
トの丈の長さや、携帯電話ではなく、ポケベルがまだ
現役で活躍していたりすることに、懐かしさを感じる
ことも出来ます。
最新のアニメ作品でいうと、「咲-Saki-」などでは、
僕には女性キャラの制服のスカートの丈が、作品内
容に対して短過ぎると、違和感もおぼえたんですが、
ああいう長さが普通だと感じる世代の人が、それこそ
くるぶしまで隠すような長さのキャラもいる、「卒業
〜Graduation〜」のスカートを見たらどう思うか、逆
に興味がありますね。
また、「萌え」ではなく、単に「子供っぽい」まみさん
に代表されるような、わかりやすく、今の目から見る
と、それこそベーシックなキャラの立て方なんかも、
素朴で微笑ましく思えます。
技術的なことでは、デジタル化以前の、セル作画で
フィルム撮影された作品であるということにも、雰囲
気としてノスタルジアを感じることは可能かもしれま
せんね。
直接的な経験の有無を問わない「懐かしさ」という
ノスタルジアの感情は、アニメ作品を作る・見る際に
おいて、とても重要な要素だろうと思います。
アニメの主人公の多くがティーンエイジャーであり、
ファンが20〜30歳代になっても、彼/彼女らの物語を
楽しめるのは、そこにノスタルジアの感情が強く働い
ているからでしょう。
また、そういった思春期へのノスタルジアは、おそらく
万国共通のもので、アニメが日本に限らない世界各
国で人気を博す理由のひとつになっているのだろうと
も想像します。
個人的な話をすると、「涼宮ハルヒの憂鬱」という作
品を評価するとしたら(アニメ版限定)、その時しか経
験出来ない、放課後や休日の、楽しい部活動の時間
へのノスタルジアというものが、確かにありました。
だから、第9話「サムデイ イン ザ レイン」みたいな、
ただそこに流れる時間だけを描くお話を作りたくなる
のは、とてもよくわかります。
現実的可能性や経験とは関係なく、ありえたかもしれ
ない幸せな時間への感情をノスタルジアとして再生す
るのに、アニメというメディアは最適なのかもしれませ
んね。
あ、追記ですけれど、この「卒業〜Graduation〜」、
アニメ版は海外でもDVD発売されていないんですが
(「聖羅ヴィクトリー」はされました)、Windows95対応
のPCゲームの続編「卒業U」は、英語版が発売され
ているんですね(via AnimeVice)。「アメリカで発売さ
れる初めてのアニメ・ゲーム」とかパッケージに書いて
ます。TOKYOPOPがMixxレーベルを名乗っていた頃
ですから、かなり前の発売でしょう。
恐ろしいことに(笑)、オンラインストアRight Stufでは
まだ在庫が残ってます。しかも61セットも。
定価29.99ドルが、これもたった3ドルの叩き売りです
から、お買い得ではありますけど?