押井守監督情報といえば日本一、ということはおそ
らく世界一だろうサイト、「野良犬の塒」の管理人で
ある教官さんにお尋ねしてみたところ、日本ではほ
とんど知られていないのではないか、とのお答えだっ
たので、本日紹介してみるのが、「In The Aftermath:
Angels Never Sleep」(88年 カール・コルパート監督)
という作品です。
これは記事題通りに、押井守さんが86年に監督した
OVA作品「天使のたまご」に、実写で撮影したフッテ
ージを加えて再構成し、アメリカ・イギリス・オーストラ
リアなどの英語圏で配給された映画なんですね。
Anime News Networkの「天使のたまご」ページの
トリビア欄でわずかに記載があったので、以前から存
在は知っていたんですが、お馴染みアメリカ・フロリダ
発のポッドキャストAnime World Orderが、3月18日
配信回で、「天使のたまご」を紹介した際、この「In
The Aftermath」についても少し言及していたので、
ちゃんと調べてみることにしました。
「天使のたまご」は、今に至るも、海外では正式な形
で映像ソフトが発売されていない押井守監督作品に
なります。他には、「御先祖様万々歳!」も、たぶん
まだだと思います。
オーストラリアでは、「Egg of God」のタイトルでテレ
ビ放送されたようですが、ソフト化はされていないと
思われます。
「天使のたまご」の海外での権利を80年代後期に徳
間書店から購入したのが、アメリカのインデペンデント
映画の製作・配給会社である、New World Pictures。
それ以前にも日本アニメ映画では、「Galaxy Express」
(81年)として「銀河鉄道999」を、「Warriors of the
Wind」(86年)として「風の谷のナウシカ」を、それぞれ
公開した経験があります。
大きく内容を短縮・改変して公開されてしまった「ナウ
シカ」については、宮崎駿監督も激怒していたようで
すが、「天使のたまご」に対しては、もっと無茶なこと
をしていたわけです。
「In The Aftermath」について、最も詳しく語っている
だろう、Anime Bargain Bin Reviewsによる物語解
説を引用させてもらうと――、
「『In The Aftermath』が描いているのは、明らかに
はされていないものの、どうやら核戦争の結果によって
荒れ果ててしまった世界である。空気は呼吸出来ない
ほどに汚染され、人間の生存者はわずかだった。
『エンジェル』という名前の少女は、安全な場所を探して
荒野をさまよっている、『フランク』という1人の兵士に
特に興味を抱きつつ、その世界を見つめていた。
エンジェルは、彼の兄『ジョナサン』から、彼女の卵を
託するにふさわしい誰かを見つけ出すよう課されていた。
彼女自身も理解はしていなかったが、その卵には未知
なる力が秘められていたのだ――」
というお話みたいですね。
まあ、「天使のたまご」を知っている人は、フランクって
誰? ジョナサンって誰? 未知なる力って何? みたい
に疑問符で頭がいっぱいになっちゃうでしょうけど(笑)。
「エンジェル」は、もちろん「天使のたまご」における「少女」
で、ジョナサンは「少年」ですが、ここでは少女のお兄さん
にされてしまってますね。
フランクは、追加撮影された実写パートに登場する青年
で、彼が荒廃した世界をさ迷う姿に、「天使のたまご」か
らのアニメ場面が挿入される、という構成のようです。
「天使のたまご」はキャラクター2人の台詞も最小限で
したが、こちらでは説明ナレーションがたっぷり追加さ
れているとのことです。
撮影地は南カリフォルニアのフォンタナ。
「In The Aftermath」全体の長さは約85分で、その中
に利用された「天使のたまご」からのシーンは約28分程
度だそうですから、主従でいうと、フランクの実写パート
がメインになるでしょうか。
終盤には、「天使のたまご」の少女と同じ姿をした、エン
ジェルが実写パートにも現れ、卵のスーパーパワー(……)
によって、空気は清浄化され、赤かった空も青色に戻り、
ハッピーエンドでめでたしめでたし、という結末のようです。
「In The Aftermath」はまずイギリスで、88年にビデ
オリリースされ、アメリカでは94年になってから発売され
ます。見た人の記憶によると、アメリカではSF作品専門
のケーブル局Sci Fiチャンネルでも放送されたようですね。
その後2000年になって、ホームビデオ会社のAnchor Bay
が、「天使のたまご」のアメリカでのDVDリリース権取得
を検討していることを明らかにしますが、2002年9月まで
にその話は立ち消えになり、何故か「天使のたまご」では
なく、「In The Aftermath」がDVD化されます。
でも、すぐに廃盤になったみたいですね。僕も調べてみま
したが、今では入手も困難だと思います。
制作に直接関わった人のコメントとしては、Internet
Movie Datebaseの「In the Aftermath」のページの
コメント欄に、サウンドデザイナー兼サウンドスーパー
バイザー兼エディターだったという人の、1999年7月に
投稿されたものがあるんですが、「初めての仕事にして
は上出来」と満足している一方で、「天使のたまご」パー
トを、「Pokeman' style」(Pokemonにあらず)と紹介
していることで、Anime World Orderのメンバーはズッ
コケてもいました。
初仕事といえば、ベルギー出身の監督カール・コルパー
ト氏にとっても、これが初監督作品だったようですね。
以降の監督作品では「ファサード 狂気の街と殺人者」
(2000年)が日本には入ってきているようです。
現在でも活躍中で、2007年の監督作品「G.I. Jesus」
プレミア上映会の記事では、お姿も見られます。
とりあえず情報をまとめてみましたが、最大の問題は、
押井守監督が、この「In The Aftermath」について、
ご存知かどうか、ということですよね。
渡米歴も豊富ですし、ご自身では気づかなくても、関係
者からとか記者会見で、代表作である「天使のたまご」
について話が出ることもあったろうと思うんですが……。
機会があったら、訊いてみてください、どなたか。
・もう商品が入手不可みたいなので紹介しておきますが、
「In The Aftermath」から、フランクがエンジェルを見
つける本編シーンです。実写版の女の子は、頑張ってア
ニメに似せてはいますね。
・よくわかりませんが、唐突に挿入されるミュージック・
ビデオ風シーン