最近は、アニメ感想あるいは評論の方にも、もう
少し力を入れなきゃと思ってて、バンダイチャンネ
ル経由になるんですが、1995年のOVA作品「卒業
Graduation 聖羅ヴィクトリー」の第1話「花鳥風月
乙女の舞!事件だよ、全員集合!!」を見てみました。
この作品は、1992年にPC-9800シリーズ対応で発
売された育成シミュレーションゲーム「卒業〜Graduation
〜」に登場する女の子達を主役にして描いた、ゲー
ム本編とは内容的に全く無関係なロボットアニメと
のことですね。あ、ゲーム「THE IDOLM@STER」と
アニメ「アイドルマスター XENOGLOSSIA」みたい
な関係ですか。
原作ゲームについては何も知りませんが、いわゆる
「ギャルゲー」最初期の名作、とされているみたいです。
知らないにもかかわらず見てみようと思ったのは、
正直に言ってしまうと、バンダイチャンネルの作品
リストをチェックしていて、単に一番馬鹿馬鹿しそう
な作品に思えたから、だったりします(笑)。
でも実際に見てみると、なかなかにしっかりとした作
品だったので、少しだけ論じてみますね。
女の子キャラとの関わりを主軸にしたゲームをアニ
メ化する際に難しいことのひとつは、女の子達と触
れ合っていく男性キャラの扱いだと思います。
ゲームをプレイしている間は、主人公イコール、プ
レイヤーの主観視点が保たれているわけですが、
客観視点から描かれるアニメだと、自分以外の男
性キャラと女の子達が、お話したりデートしたりする
のを脇から眺める形になるわけで、まあ、面白くな
いですよね(笑)。
かといって、アニメのお話に男性キャラを出さない
とすると、そもそも男性と関わるためだけに存在し
ている女の子達の存在・行動理由もなくなってしま
って困ります。
この「聖羅ヴィクトリー」では、ゲーム版の主役視
点であった男性キャラの教師を出さない代わりに、
女の子達の存在理由として、凶悪な犯罪ロボットと
戦う正義の組織「聖羅V」を結成した、という設定が
用意されています。
この物語設定は、少なくとも第1話においては成功
していると思います。
その理由には2つあって、まず「暴れている巨大な
悪に立ち向かう正義のロボットが突然現れ、悪のロ
ボットをやっつける」というフォーマットが、ロボットア
ニメの第1話のそれとしてお馴染みの、共通理解を
得たものであり、物語世界構築に余計な手間を必要
とせず、ただ女の子達のキャラとしての魅力を伝え
るのに専念出来るから、ですね。
この作品が制作された1995年の時点でも、いまさ
ら「そんな巨大人型ロボットなんてありえない」とい
う批判は野暮なだけであり、ロボットアニメならこう
いう第1話でいいという、ジャンルに対する了解が広
く存在していたと思います。
演劇や映画でも、何度も上演・制作されてきた名作・
名場面というものがあって、筋は誰もが知っていても、
今度は誰が演じてどういう演出解釈がなされるのか
という点に、観客の興味が集中するのに近いですか。
だから、ゲームのキャラである女優達に、「ロボット
アニメの第1話」という演目を与えた、と考えればい
いわけですね。
ロボット出動の際に、全員が制服姿になるのは、理
屈で考えればおかしいですけれど、彼女達が、そも
そもそれ以上のアイデンティティを求められてない
象徴だろうと思います。
この選択が、原作ゲーム内でのキャラにとってふさ
わしいものであったかどうかは、ゲームを知らない
のでわかりませんが、結果としてのアニメを見る限
りでは、あらためての世界構築を省いていい分、女
の子達の魅力を伝える場が増えているのだろうとは
思いますし、キャラが売りである作品としては、正し
い方向性だったでしょう。
これが逆に、「誰でもわかるロボットアニメの第1話」
ではなく、男性キャラは出さないが、あらためての世
界構築が必要なプロットだったりしたら、30分の時間
は説明だけで終わってしまったと思います。
役に立つ男性キャラの排除によって、「女の子達同士
だけで力を合わせて頑張る」という意味でのお話にな
ったのも、個人的には嬉しいですし。あ、あんまり力
は合わさってなかったような気もするかも(笑)。
成功の第二の理由は、そういうプロットを伝える、
アニメ作品としてのクオリティが高いことですね。
ちゃんと出来ている、というと失礼に聞こえてしまう
かもしれませんが。
作画は良好だし演出にもキレがある。というか頑張
り過ぎくらいに(笑)、ロボットアニメとして燃えるシー
ン・アクションが満載です。
ロボットアニメという「何でもあり」なジャンルだから
と、ヒロインの1人志村まみさんのコピーアンドロイ
ドまで登場させて、さらに女の子を追加するという、
ありがたいサービスもありますし。
これが、ゲームの延長にある現実的なドラマだった
りしたら、そんな荒技は無理ですよね。
でも本物を蹴飛ばして操縦席奪うのは、やっぱりひど
過ぎです(笑)。
ともあれ、どんなに馬鹿馬鹿しいことでも、実力が
ある者が徹底して本気でやれば、これだけ面白くなる
という証明だろうと思います。第2話も楽しみです。
唯一の困った点は……OPと出動シーンでの裸ですね。
別に成人向けゲームが原作というわけではないので
すし、それ以外に本編内でファンサービス的な描写
はほとんどないのですから、それだけ浮いてしまって
います。
ちなみにこの作品、当時ビデオとレーザーディスクは
発売されたようですが、結局日本国内ではDVD化
されていないみたいですね? 日本で見ようと思ったら、
ネット配信の利用になりますか。
北米では、「Sailor Victory」のタイトルで、MEDIA
BLASTERSから2001年2月に、DVDが英語吹替入
りで発売されています。アメリカAmazonだと、残り2
枚ですが、まだ在庫がありますね。