たまには、アニメ作品批評もしたいですね。
2年に渡って続いた「Yes!プリキュア5」シリーズが
終了した後、現在視聴している新作テレビアニメは、
「獣の奏者エリン」(公式サイト)だけになります。
2月28日放送の、第8話「蜂飼いのジョウン」まで
視聴済みです。
録画を1話から続けている冬新番は他にもいくつか
ありますが、いずれ観るかどうかはわかりません。
とりあえず春新番からは、「戦場のヴァルキュリア」
(公式サイト)が、チェック予定にはなっています。

この「獣の奏者エリン」、個人的には久々に膝を正し
て観るのが楽しい作品になっています。内容は正直
かなりシビアなので、「楽しい」という表現はちょっと
違うかもですが。
ひと言でいうと、作品世界で暮らすキャラ達の、その
生活を通して、物語を伝えていくというアプローチが、
僕にはとても好ましいからですね。
例えば、キャラの行動の動機付けとなるものに、「理
念」なんかがあったりしますよね。大きな話だと、この
世界を変えたいとか、あるいは守りたいとかいう。
その際にはやはり、キャラが変えたい、守りたいと思う
世界が、彼/彼女にとってどういうものであるのか、何
が問題なのか、どんな価値があるのかということが、
きちんと描かれていないと、そのキャラの行動にも、説
得力が生まれません。「エリン」のように、僕達が暮らし
ているのとは価値観も社会通念も異なるだろう、別の世
界の物語であれば、なおのことです。
「エリン」の場合は、主人公であるエリンという子供の目
を通して、まずこの世界の生活がどんなものであるか、
丁寧に描くことから始まっています。
世界の全体像を把握していないし、主義や共同体への
帰属意識も明確に構築していない、子供の目を通すか
らこそ、まだ狭くはありますが、プレーンな形で、世界は
視聴者にも少しずつ提示されていきます。
特にエリンと同年代である子供の視聴者達にとっては、
大きな理念よりも、どんな食べ物が美味しいとか、お母
さんに抱かれる心地よさとか、自分の保護者がどんな仕
事をしているか(=自分が何を手伝うか)といった、生活
描写を通しての方が、きっと、より世界が見えやすくなる
と思います。
エリンの視点と経験を通した、その過程はまた、自分と
他人の暮らす世界をいずれ理解する時のための、よい
演習にもなるでしょう。
一方で「エリン」には、真王とその一族や、大公親子達
による、世界をめぐる大枠の語り筋も用意されていて、
未来でのエリンとの関わりを予期させています。
国をどう導くのかという政治的お話の核には、それぞれ
の立場での理念がおそらくはあって、彼らは理念を語り
示すことが仕事の人達ですから、物語の中の担当として
は、それでいいと思います。
ただもし、エリンの目を通した、市井の生活レベルでの
視線を抜きにして、彼らの政治劇だけを描いても、この
異世界を、人々が暮らす場所として実感するのは、視聴
者には難しかったでしょう。現状では両者のバランスが、
上手くとれていると思います。
いずれはエリンも主人公として、彼女なりの理念を抱き、
行動していくことになるのだと想像します。
その時に、様々な生活の体験を通して成長している筈の
彼女の選択は、きっと人間として理解出来る、血肉の通
ったものになっている筈です。今はそのための、種を蒔
いている段階だと思います。きっといい事も悪い事も、
ひとつひとつの経験が、エリンという子供を主体的かつ
唯一無二の主人公にしていくための材料なんですね。
年長の視聴者である僕には、そういった過程の論理的帰
結としての、エリンの成長を見届けたい楽しみもあります。
愛娘の将来を見届けられなかった、母親ソヨンのために
もと言ってしまうと、さすがに格好つけ過ぎですけど。
大人になった時のエリンの理念が、世界を動かすだけの
力を備えていたなら、何故彼女がこの物語の主人公で
あるのか、その意味もわかるでしょう。期待したいです。
【アニメ感想・「獣の奏者エリン」の最新記事】