2008年12月18日

「Yes!プリキュア5GoGo!」の新作SS、出来ました。

というわけで、「Yes!プリキュア5GoGo!」の新作SS
「Good Days,Good Days」が出来ています。
一応、本編第36&37話の終了後のお話であるSS「Two
in the Bed」
の、さらに翌日のお話ということでお願いし
ます。
かれんさんとりんさんとの、公園での会話で、現実の季
節は冬ですが、作中の季節は、まだ本編放送時の10月
後半頃ですね。じゃないと寒過ぎですし。
こういうお話ならいくらでも書いていたいですが、それだけ
「GoGo!」最終話のお別れを見るのが辛くなってきます。
自分で自分を追いつめてる気もしますが(笑)。


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「Good Days,Good Days」


 「かれんさんじゃないですか?」
 くるみとの待ち合わせ場所である、公園のベンチに座っ
ていたかれんは自分を呼ぶ声に、それまで目を通していた、
文庫本サイズのドイツ語の文法書から顔を上げた。
 目の前にいるのは、青いトレーニング・ウェア姿の夏木り
んだった。ランニングの途中だったのだろう、短めの髪は少
し乱れ、頬は赤く上気し、息は荒い。
 その場で足踏みを続けているりんに、かれんは本を閉じ
て、「こんにちは」と軽く頷く。
 りんは不意に足を止めると、何かに気づいたかのように、
顔を突き出して、かれんをじっと見つめる。頭から足の先
まで、ゆっくりと視線をめぐらせた。
 「……何かしら?」
 訝しげにかれんが問うと、りんは囁くように、
 「かれんさん。――今日はおめかししてません?」
 と訊いてくる。
 かれんはあらためて、ケープ付きで手触りのいいソフト
地の、ゆったりとしたサイズの白いコートと、控えめのフリ
ルであしらった藍色のワンピースという自分の姿を確認す
る。確かに、お気に入りの服装ではある。
 そういえば普段よりも、身支度に倍以上の時間がかかっ
たような気はする。シャワーも念入りに浴びた。コロンもア
クセサリーも、とっておきのを選び出した。出かける時に見
送ってくれた執事のじいやも、「お綺麗ですよ、お嬢様」と
言ってくれたと思い出す。
 「おかしいかしら」
 つい呟いたかれんに、りんは慌てて、
 「あ、いえいえ。かれんさんはセンスがいいから、派手
 とかそういうんじゃなくて。全体の雰囲気がいつもよりず
 っと気合いが入っているっていうか、その、輝いてます」
 と説明する。
 「そ、そう――。ありがとう」
 りんはぎごちなく礼を返したかれんをもう一度見つめて
から、にっと笑うと、「せっかくだから、少しお話しません?」
と言ってきた。
 かれんは時間を確認する。くるみとの待ち合わせの時刻
には、もう少し間があった。
 昨夜かれんの家に泊まったくるみは、トロフィーをナッツ
ハウスに戻すため、一度じいやの車で送ってもらって帰っ
ている。
 かれんも同行してもよかったが、待ち合わせて会おうと
いうくるみの主張を受け入れた。まだ外で待つのが辛い時
期でもなかったし、どのみち今日は休日で、2人のための
時間はいくらでもある――筈だった。
 「ええ。いいわよ」
 頷き返したかれんの隣に、りんは「ありがとうございます」
と言いながら腰を下ろす。ポーチに本をしまいながら、
「ランニングはいいの?」と尋ねるかれんに、「ちょうどこの
公園で休憩するところだったんです。今日の午前は自主ト
レですし、ゆっくりして大丈夫です」と、フットサル部に所属
しているりんは笑う。
 ベンチに座ったりんは、一度大きな伸びをしてから軽く
自分の膝をぽんと叩き、かれんの方を向き直った。そして
おもむろに――、
 「で、くるみとはどうなんですか?」
 とごくごく普通の口調で、直球の質問をかれんに投げつ
けてきた。
 「――!」
 口が硬直し、即答出来なかったかれんは、空を見て、地
面を見下ろし、三方を木立に囲まれた公園の左右に視線を
めぐらし、大きなまばたきを数度繰り返してから、やっとのこ
とで呼吸を整え、
 「な、仲良くしてるわよ」
 と答えられた。
 その答えを聞くなり、りんは「あはっ」と大きく明るく笑った。
 とんでもなく嬉しそうに、にこにことかれんを見つめ、腕を
組んで「うんうん」と頷きを繰り返す。かれんには、そのりん
の反応の意味がさっぱりわからない。
 「りん――?」
 「ああ、すみません。その、おかしいとかじゃなくて、今の
 かれんさんの言い方が、とっても可愛かったんで――」
 かれんはりんの答えで、自分の顔が火照るのを自覚した。
返す言葉が見つからない。
 「ふーん。仲良くしてる、か。いいですね、そういうの。
 仲良く出来る相手がいるっていうのは、やっぱり素敵な
 ことですし」
 「りんにも、のぞみがいるじゃない」
 「あー、のぞみは……、幼馴染みですし、そりゃあ大切な
 親友ですけど、半分腐れ縁みたいな感じで」
 「気がついてるかしら? のぞみのことを口にしている時の
 りんの顔は、どんな時よりも一番嬉しそうなのを――」
 「へへ――。やだなあ、照れちゃいますよ」
 「ふふ。幼馴染みか――」
 かれんは知らず、小さな溜め息をついていた。
 「かれんさん?」
 探るようなりんの表情に、かれんはつい言葉を続けてしまう。
 「りんとのぞみはずっとずっと小さい時から2人一緒で、お互
 いのことを知っていて、それだけの時間積み重ねてきた、
 素敵な思い出もたくさんあるんでしょうね」
 「そりゃまあ、いいのも悪いのも色々ですけど」
 かれんはりんから目を離して、高い空を見上げた。薄い雲
が流れる午前の空の青に、じっと瞳をこらす。
 「私とくるみが出会って――、今みたいな距離にまで近づけ
 てから過ごせた時間はほんのわずか。数え切れないくらい
 の思い出を一緒に築き上げてきた、りんとのぞみを羨ましく
 ないと言ったら、嘘になるのかもしれない――」
 かれんはひとり言のように呟く。言ってから後悔もする。
 言っても仕方がないことだとは、自分でわかっていた。
 「かれんさん――」
 かれんはりんに、笑顔を返そうと努力したが、ずいぶんと
ぎごちないものになっているだろうと想像出来た。
 かれんを見つめたままで、ふっと息をもらしたりんは、
 「ねえ、かれんさん」
 と言って、触れるぐらいに、かれんに身を寄せてきた。
 「……りん」
 「あたし達は一度、ココやナッツ、ミルクとのお別れは経験
 していますよね? ナイトメアとの戦いがおわった時に。
 そのお別れの時に、一番最初に泣いちゃったのはあたしで
 した。ああそうか、大切なものは、失った時に初めてその価
 値がわかるんだって思って……。普通に過ごすようになって
 いたミルク達との毎日が、みんな宝物のように思えて……」
 「うん……」
 「幸いに、あたし達はもう一度、ココ達と一緒に過ごせて
 いるわけですけど、またきっと、お別れの日は来ると思い
 ます。でも今度は、ココやナッツ、ミルクというか、くるみと
 いられる時間の大切さがよくわかっている。きっとかれん
 さんにとっては、前以上に大切な、かけがえのない時間に
 なってるって、あたしにもわかります――」
 かれんはりんの真剣な表情に、黙って頷き返す。
 「だからこそ、いま目の前にある時間の一秒一秒を、出来
 る限り楽しく、素敵に過ごせばいいんだと思うんです。それ
 があたし達に出来る、精一杯だと思いますし」
 「――そう、ね」
 「……あたしだって、いつまでのぞみと一緒にいられるか
 わかりません。うちのお母さんと、のぞみのお母さんみた
 いに、大人になってもずっと近所ならいいけれど……。
 のぞみとはずっとずっと一緒にいたい。誰にも渡したくな
 んてない。でも、のぞみには自分の夢をかなえて欲しいし、
 あたしにも、あたしの夢があります。のぞみと自分の夢と、
 どっちが大切かなんて選べないけれど、いつかは選ばなく
 ちゃいけない日だってくるかもしれません。
 でも、それはもう、その時のことだから、のぞみのそばに
 いられる、この『いま』は、出来る限り大切にしようって思
 っているんです。のぞみはあたしにとって、一生に1人の、
 それだけ大切な存在なんだし……。
 だから、もしくるみがかれんさんにとって大切な人になっ
 たんなら、2人にも『いま』の時間を、後悔しないくらい目
 一杯に楽しんでほしいとしか、あたしには言えないです」
 「りん……。ありがとう」
 かれんはりんの手を取って、その甲をなでる。
 「へへ……。年上の人にこんなこと言っちゃうのは偉そう
 かもですけど。でも、おかしいですよね? あたし達って、
 最初は仲悪かったんですよ」
 「そうね。いろんなことで、そりが合わなくてケンカして」
 かれんは苦笑しつつも、一瞬だけ記憶をよみがえらせる。
 「でも今は、こんなことまでお話出来るようになったわけで、
 世の中、どうなるかわかりませんよね」
 「ふふ。本当にそうね」
 「だったら、もうずっと離れ離れになると思っていたココ
 達とまた会えたように、かれんさんとくるみのことだって、
 どうなるかわからない――くらいに、前向きというかお気
 楽に考えてもいいかもしれませんよ。
 もし、かれんさんが本当に我慢出来なくなって、パルミエ
 王国に乗り込んでくるみをさらっちゃって、そのまま花嫁
 にしちゃう――!とかいう計画なら、いつでも全面的に協
 力しますし」
 「りん、それは面白がって言ってるでしょう?」
 「わかります?」
 目を合わせた2人は、声を立てて笑いあう。
 「――あ、待ち人来る、ですね」
 りんは公園の入り口に目を向けながら立ち上がる。かれん
も見ると、やはりいつもよりはお洒落をしている風のくるみが、
かれんを探すようにして、足早に姿を現した。
 「じゃあ、あたしはこれで。お邪魔虫は退散っと」
 「色々ありがとう、りん」
 「まあ、あたし達にとっても、かれんさんは大切なお姉さ
 んですから。そうそう、最近はケンカ相手が見つからなく
 て時々寂しそうなんで、たまにはのぞみにも、くるみを貸
 してあげてくださいね」
 「了解」
 かれんは微笑んで、りんにウィンクを送る。
 それをキャッチしたりんはかれんにブイサインを返すと、
気づいてこちらに近づいてきたくるみとすれ違いざま、ひと
言ふたこと言葉を交わし、そのまま公園の外に走り去って
いく。
 その背中に、かれんはもう一度感謝の言葉をおくった――。



 「りんと、なんの話をしていたの?」
 訊いてきたくるみは、ボタンの大きな茶色のダッフルジャ
ケットに、短めのコーデュロイのスカート姿だった。初めて
見る服かもしれないが、小柄なくるみに、よく似合っていた。
 かれんは立ち上がって、くるみに歩み寄る。
 「くるみが私にとって、どれだけ可愛くて、大切な女の子な
 のかを説明してあげてたの――」
 「――ええ!?」
 一瞬で、くるみの顔が赤く染まる。耳まで赤い。
 「か、からかわないでよ! かれんの意地悪!」
 かれんはそのくるみの肩に、そっと手を置いた。
 「くるみ」
 名前を呟きながら、衝動にまかせて、かれんはくるみの唇
に、一瞬だけ自分の唇を重ねた。
 それは触れるだけの、ひそやかで優しいキスだった。
 くるみはそのまま立ち尽くしてかれんを受けとめ、その身体
が離れると、ゆっくりと目を閉じて深く息をはいた。
 目を開けると、かれんの瞳をまっすぐに見て、
 「――私にとっても、かれんは素敵な、大切な人。今日は
 とても綺麗よ」
 と、答えてくれる。かれんは自分の心の中で、なにかが溶
けるような感触をおぼえた。
 そして次の瞬間、くるみは「もう、いきなりなんて――」と、
顔一杯の照れ笑いを浮かべながら、飛びつくように、かれん
の右腕にしがみついてきた。
 「じゃあ行きましょう! 今日は1日中、かれんを引っ張り
 まわしてあげますからね!」
 「ええ。目を回さない程度にお願いね」
 「だーめ。私のペースについてきなさい!」
 と宣言したくるみは、かれんとしっかり腕を組んだまま、
公園の出口に向かう。
 かれんも歩みを合わせながら、くるみの温かな手をやわら
かく握りしめた――。


                 <終>


   

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