は、引き続き第36話「危ない!ファイブDEチャンス!(前編)」
と第37話「同(後編)」を見てみました。
で、久々に良い内容だったので、感化されてついついSSなん
かをまたぞろ書いてみました。
かれんさん×くるみさんで、本編終了後、かれんさん邸に
くるみさんがお泊りするという、いつもの(笑)パターンです。
進歩がないです。
まあ、いわゆる甘々で百合百合な雰囲気なので、ダメな方は
ご遠慮くださいです。
「Two in the Bed」
熱いシャワーを軽く浴びて、髪を乾かしてから薄手のネグリジ
ェに着替えたかれんが自室に戻った時もまだ、パジャマ姿のく
るみはベッドの上で、立てた枕を背にし、抱くようにトロフィーを
見つめていた。
かれんに気づいたくるみは照れもせず、にっこりと笑みを向け
てくる。シャワーで身体が火照ったのか、子供っぽくパジャマの
袖と裾を少しまくり上げていた。
微笑を返しながら、かれんはそのくるみの隣に腰を下ろした。
やわらかなベッドのスプリングが、2人の重みを受けとめる。
くるみに顔を近づけつつ、その視線をたどって、かれんは自分
達6人の名前が刻まれた、トロフィーのプレートを見る。
「――美々野くるみ」
なんとはなしにその名前を呟いてみると、くるみはまた嬉しそ
うにくすくすと笑った。今日のくるみは笑ってばかりだ。
自分の名前をそっと指先で撫でたくるみは、「じいやさんに感
謝しないとね――」と言葉をもらした。
「ええ。――大事な弟子のことですもの。それにクイズに参加
しようとしなかった私を気遣ってくれていたのもじいや。でも、
私の名前がここにあるのは、ミルク――くるみのおかげでも
あるのよ」
「――水無月かれん。ふふ。感謝しなさい?」
ぱっと明るく笑ったくるみは、胸を張って答える。下ろした髪
が柔らかく揺れ、先にシャワーを浴びているくるみからは、同じ
シャンプーを使った筈なのに、かれんは違う香りを感じたような
気がした。
「そうね。どうもありがとう、くるみ」
「どういたしまして」
得意気なくるみと、かれんの視線がまっすぐに重なると、自然
に2人は声を出して笑い合っていた。
くるみはサイドテーブルに置いてあったケースに手を伸ばし、
慎重にトロフィーをその中に戻した。名残惜しそうに蓋を閉じる。
明日にはナッツハウスに戻す約束で、今日だけかれんの家で
預かることにしてもらったのだ。
「私達の名前だけじゃなくて、プリキュアの名前でも作ってもら
いましょうか? もちろんくるみはミルキィローズで」
かれんはふと思いついて、まったく冗談のつもりで言ってみた。
「そういうのは要らないわ」
だが、くるみはそっけなく答える。両手で髪をかき上げて、小さ
く可愛らしい伸びをした。
「……そう?」
「もちろんミルキィローズも私だけど……、あれは私自身の力
じゃないというか、もっと大きな力に動かされている感じなの。
私はたまたま、力の出口として、その一部を使うことを許され
ているみたいな――。わかる?」
「わかる、と思うわ。プリキュアの力だって、本当はそういうも
のだと思うし」
「それにね」
「うん?」
「こういうものは、1つだけの方がいいと思うの」
言ってくるみは、もう一度トロフィーの入ったケースに触れる。
そして仰向けのまま、静かに身体をベッドへ倒した。ウェーブ
のかかった美しい髪が、白いシーツの上に広がる。
くるみは電灯の明かりに、わずかに目を細め、溜息なのか深
呼吸なのかわからない、大きな息をする。薄い胸が、ゆっくりと
上下した。
「ミルクでもくるみでも、かれんの部屋の天井は同じように見え
るのね――」
答えを求めていないような呟きを聞いたかれんは、そのくるみ
の頬から顎を、手の甲で軽く撫でた。癖になったようなかれんの
動作に、くるみはくすぐったそうに小さな笑い声をもらすが、嫌が
りはしない。
「ねえ、くるみ?」
「なに?」
「みんなと一緒なのはこれ1つでいいと思うけど……、みんな
には内緒で、私とくるみだけのものを何か2つ揃えてみない?
私達だけでこっそり――」
「それいい!」
くるみは跳ね起きて、満面の笑みを浮かべるとかれんの手を
両手で握りしめる。
「さすがかれんだわ! 2人でペアの、お揃いのなにか――。
ペンダントでもネックレスでも指輪でも、いつも身に付けていら
れるようなものがいいわ。そうしたら、かれんにはいつだって私
のことを思い出してもらえて――。あ……」
そこまで言って、自分の言葉に気づいたくるみは慌てて口を手
でふさぐ。そのまま顔を落とし、自分の胸を抱きしめる。
「……くるみ」
身体を寄せたかれんがその肩をさすりながら声をかけると、
ようやくにくるみは顔を上げてくれた。ただ一生懸命に笑みを浮
かべようと努力しているのが、かれんにはわかった。
「……ふふ。私ってダメね。かれんの前だと、何も隠せない。隠
したくない――。そんな自分が、どうしようも出来ない」
くるみは言葉を続けようとするが、笑おうとする一方で、大粒の
涙が、ぽろぽろとその瞳から溢れ出してくる。頬を伝った涙が、
シーツに小さな染みをつくる。
「ううん、他のみんなだって、こんな私のことでも大事に思って
くれていて、それが胸いっぱいに嬉しくて、辛くて――」
「くるみ……」
かれんがくるみの身体を抱き寄せたのと、くるみがかれんの胸
に、すがりつくようにして頬を寄せたのが、ほとんど同じ瞬間だった。
胸の中で静かな嗚咽を繰り返すくるみの背中を、かれんはただ
優しく撫で続けた。自分の頬を、熱いしずくが濡らしているのに気
づくが、ただ流れるままにまかせた。
やがて、不意にくるみが呟く。
「……私が、くるみとミルキィローズの2人だったらよかったの
にね。あれだけ強いローズには、ココ様とナッツ様のおそばで
お世話役として頑張ってもらって、くるみの私は……私は、お
医者さまになったかれんのそばで、看護婦さんとして働くの。
ずっとずっと一緒に。どう?」
「クス。可愛い天使さんになりそうね」
「でも……。こんなに弱くて、甘えん坊で、泣き虫な私なんて、
きっと何の役にも立たない。ミルキィローズの立場にだって、
ふさわしくないかもしれない。かれんにだって、私は――」
「私は好きよ」
かれんは優しく、だがはっきりと答えた。
「弱いところも甘えん坊なところも、泣き虫なところも、私はみ
んな好き。嘘じゃないわ」
「かれん……」
おさまっていた涙が、また頬を流れる。それでもくるみは、かれ
んから視線を離さなかった。かれんは涙でくるみの頬に張りつい
た髪を、指でそっと脇によせる。
その手をくるみが握り返し、自分の細い指を絡めてきた。お互
いに握りしめ合うように、2人の手が重なった。
「私はやっぱりダメね。かれんにどんどん甘えて、なんでもお願
いしたくなってしまいそう――」
涙で濡れたくしゃくしゃの顔だったが、その声にはくるみ本来の
張りが戻りつつあった。
「どんなお願いかしら。遠慮しないで言ってみて。くるみにとって
嬉しいことは、きっと私にとっても嬉しいことだから」
かれんはくるみの瞳を覗きこんで言う。
「――その、さっきの話は、まだ有効?」
「え? ああ、2人のために、何か揃えましょうって――」
「うん。かれんさえよかったら明日にでも、2人で探しに行かな
い? 2人だけで、2人しか知らない秘密のお買い物」
「素敵な計画ね。もちろんいいわよ」
「よかった――」
くるみは力が抜けたように、ベッドにゆっくり倒れこんだ。かれ
んもその隣に、自分の身体を横たえる。
ひとつの大きな枕の上で、どちらからともなく顔を寄せ合い、頬
と頬とが触れた。かれんはリモコンを片手で操作して、部屋の照
明を消す。
「かれん――?」
くるみの囁きが、闇の中でそっとかれんの耳に届く。
「はい」
「――その、ありがとう」
かれんはくるみの手を強く握り返すと、その耳に囁き返した。
「――大好きよ、くるみ――」
「! ありがとう、かれん――」
もう一度、くるみは礼の言葉を呟いた。一拍置いて、じゃれつく
ようにかれんの身体に密着してくる。パジャマ越しに熱い体温が、
その全身から伝わってきた。
「約束があるのは素敵なことね。明日なにが起きるか、少なくと
もひとつだけは確かになるんだもの――」
明るさを取り戻したくるみの声は、かれんの皮膚にそのまま染
み込んでくるように、甘く感じられた。
「――もうひとつだけ、確かなことがあるわよ」
「?」
「明日の朝まで、私がずっと、くるみのそばにいること」
額と額を重ねながら、かれんは優しく言った。
「かれん……」
自分の背中に回されたくるみの手に力がこもる。
シーツを引き上げたかれんは、そっと2人の身体を包んだ――。
〈終〉
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