2008年11月03日

北米での、英語版コミック・原作小説「涼宮ハルヒの憂鬱」マーケティング戦略について


11月1日付け記事の最後で少しだけ触れた、英語
版「涼宮ハルヒの憂鬱」のコミックと原作小説につい
ての、北米市場でのマーケティング戦略を、もう少し
詳しくということなので。
主なソースは、Manga BlogのBrigid Alverson
さんによる、Publishers Weekly10月21日付け
記事、

"The Mainstreaming of Haruhi Suzumiya"

になります。


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まず、10月28日から既に第1巻の刊行が開始され
ているコミック(ツガノガク版)ですが、出版元は、Yen
Press(公式サイト内「ハルヒ」ページ)。
定価は10.99ドルで、Amazonなどだと売価は8.79
ドルになっていますね。レーティングは"older teens
(15才以上)"です。
日本版は既に第6巻まで刊行済ですが、北米では
以降第2巻が2009年3月、第3巻が同年6月、第4
巻が10月というスケジュールになっているようです。


記事によれば、第1巻の初版の刷り冊数(売り上げ
冊数ではありません、念のため)は、7万5千冊との
ことで、繰り返しですけど、アメリカで一番売れてい
るマンガである「NARUTO」の、各巻ごとの平均売り
上げ冊数が十数万冊くらいの筈ですから、その半分
強というのは、かなり思い切った数字だろうと想像し
ます。
出版元Yen Pressの共同ディレクターである Kurt
Hassler氏によれば、コミック版の対象層は、マンガ
読者であり、既に構築されている、アニメ版「ハルヒ」
のファンだそうです。
つまり、コミック版は後述する小説とは違い、かなり
限定した層を狙っている、ということですね。


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一方の原作小説版「ハルヒ」の、北米での出版元は、
Yen Pressと同じHachette Book Group USA
グループ内の、Little, Brown Books for Young
Readers。
第1巻の発売予定は2009年4月で、ペーパーバック
版(8.99ドル)とハードカバー版(14.99ドル)の、2つ
のバージョンで発行予定です。
ペーパーバック版の初版刷り冊数は5万冊、ハードカ
バー版は1万冊の、合計で6万冊の予定ですね。
北米で一番売れているライトノベルというか、日本作
家による小説のひとつが、菊地秀行さんの「吸血鬼
ハンターD」シリーズで、出版元Dark Horseの自己申
によれば、2007年の時点で、各巻の平均売り上げ
は2万冊近いとのことで、その3倍以上ですから、やは
りこちらも強気の数字だと思います。


こういう2つのバージョンで発売されるのは、この小説
版「ハルヒ」が、いわゆるオタク層以外の、北米のメイ
ンストリーム層、一般層にもアピールする魅力を備え
ているという出版社側の判断からです。
価格の高いハードカバー版はオタク層向きで、日本版
と同じ表紙イラストを用いる予定ですが、一般層向きの
ペーパーバックの表紙にはマンガ絵は用いず、カラフル
なステップバック・カバーということですから、二重表紙
みたいな体裁になるんでしょうか。


このペーパーバック版「ハルヒ」の対象読者層はヤン
グアダルト層ということなんですが、特に狙いを絞って
いるのが、一般の、十代の女の子なんですね。
コミック版「ハルヒ」の宣伝は、Yen Pressのマンガ雑
誌Yen Plusでされるのに対して、この小説版「ハルヒ」
の広告は、AlloydELiAsといった、トゥイーン少女
向けのカタログに掲載され、MySpaceやFacebookな
どの大手SNSでも、プロモーションが展開される予定と
のことです。


出版社側の、原作小説「ハルヒ」は濃いオタクでない、
北米の十代の女の子達をメインに売る、という判断は
興味深いかもです。
日本市場での、「ハルヒ」の男女購買層データなんかは
知らないんですけど、想像として、日本だと男性の読者
が多いような気はします。十代の北米の女の子が「ハル
ヒ」を小説でどう思うかは、正直よくわかりません。
発売までにまだ半年ありますから、どうやってプロモー
トしていくのか、アニメ版の時と同じく、その作戦が色々
面白くなりそうです。アニメ版第二期とどう絡むのか、
という事もありますけど。


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ちなみに、「ハルヒ」と同じく日本ではベストセラー小説
でありながら、マーケティングの失敗により北米市場で
は全く売れなかった作品として出版社側が認めている
のが、「グイン・サーガ」シリーズ(栗本薫)になります。
ニューヨーク発のポッドキャストNinja Consultant
の第64回(2008年10月16日配信)に、英語版「グイン
・サーガ」の出版社であるVerticalの、エディトリアル・
ディレクターIoannis "Yani" Mentzas氏が出演し
て、北米での「グイン」出版について、色々と語ってく
れていました。


Mentzas氏によると、2003年にVerticalは、英語
版「グイン」の最初の3巻を、ハードカバー版(定価
22.95ドル)で出版したものの、売れ行きは芳しくなく、
そこまでで、出版を一度中断しなくてはならなくなった
そうです。
その理由は、小説の内容にあるのではなく、例えば
表紙なども、マンガ・アニメファンにアピールするデザ
インではなく、ファンタジーファンのみを対象とした、
北米版オリジナルのものに変更するといった、マーケ
ティング戦略の失敗にあったのでは、というのが、
Mentzas氏の考えです。価格も高過ぎたのでしょう。


戦略を練り直したVerticalは、2007年12月になって、
価格を北米でのマンガと同じ9.95ドルにまで引き下
げ、表紙も日本版と同じものを用いた新しい英語版
「グイン」を、ペーパーバックで再出版します。
現時点(2008年7月)までに、第5巻までの出版がな
されており、その売り上げはハードカバー版を上回る
ものだということですが、出版が中断されたハードカ
バー版の売り上げが相当に悪かったことも確かです
から、上回っているからといって、ヒットしていると判断
するのも、難しいところです。
少なくとも、「D」や「十二国記」、小説版「DEATH NOTE」
のように、オンラインストアのランキングで見かけたこ
とは、そのペーパーバック版でも、一度もありません。
ともあれ、日本でヒットしているからといって、海外で
も売れるかどうかというと、それはまた別の話で、その
地にあった販売戦略が必要だという、ひとつの例だと
思います。


posted by mikikazu at 08:05 | TrackBack(1) | 海外情報(北米) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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Excerpt: JUGEMテーマ:漫画/アニメ  アニメの話題あれこれ。
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Tracked: 2008-11-06 00:57
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