式サイト)は、まず第19話「浦島かれんと亀ミルク!?」を
見てみました。続く第20&21話は、もうちょっと待ってく
ださいという感じです。
ともあれそういう事情でしたら、代わりに、じゃないです
けど、こちらでかれんさんとくるみさんのSSを少しだけ
掲載しておきますね。本編内容とはかなり関係ありませ
んが、いつものように(笑)。
そちらの第19話感想寸劇での2人のやりとりも、甘々で素
敵だったと思います。重ねた2人の頬の温もりが伝わって
きて、こちらこそ転げまわりたいくらい、いい意味で気恥ず
かしさいっぱいです。
こういう風に簡潔に雰囲気を構築出来たらいいんですけど、
うちのは段取りばっかりに手間取って(笑)。
「Tea in the Room」
白いカップから立ち上がる紅茶の香りを、かれんは
目を閉じてそっと味わう。アールグレイの甘い香りは
心地良いものだった。
小さなテーブルをはさんだ向かいの席で、じっと自
分を見つめるくるみに微笑を返してから、かれんはカ
ップに唇を寄せる。
「……どう?」
かれんの反応をわずかでも見逃さないかのように、
視線を離さないくるみがそっと訊いてくるのに、かれ
んはもう一度笑みを返した。
「とても美味しいわ。温度や蒸らし具合もちょうど
私の好みで。じいやが入れてくれるのと同じくらい
に素敵な味になってるわよ」
「やった!」
かれんの答えにくるみは顔いっぱいの笑みを浮か
べると、椅子から飛び上がるようにして立ち上がり、
胸の前で手を合わせて声を上げる。
「――ふふ。くるみも、自分の分をどうぞ。冷めな
いうちにね」
そんなくるみを見つめながら、かれんはもう一度カ
ップに口を寄せ、ゆっくりと紅茶を味わってみる。
人間としての姿に変われるようになって、行動範囲
の広がったミルク=くるみは、頻繁にかれんの家を訪
れるようになっていた。プリキュアの他のメンバー達
の家にも同じように顔を出しているかというと、そんな
こともないらしい。
最近では、ただ暇をつぶすのではなく、じいやから
料理などの家事全般のレッスンを受けたりもしている。
じいやが可愛い弟子が出来たように楽しそうなのは、
かれんにも嬉しかった。
ともあれ、その成果のひとつが、今日の紅茶という
わけだ。
「でも、手間をかけるとそれだけ美味しくなる、とい
うのは本当ね」
お茶受けのクッキーを頬張りながら、くるみが呟く。
「それに、紅茶にあんなに種類があるなんて知らな
かったし、蒸らし時間とかにも気をつけなくちゃいけ
ないし、勉強することばかりね」
「そうね。美味しいもののためになら、人間はいくら
でも研究して、努力を重ねられるんじゃないかしら」
「――でも、料理する人が頑張れるのは、美味しさ
それだけのためじゃないかも」
「どういうこと?」
「さっきかれんの笑顔を見て思ったの。ああ、私はこ
の笑顔を見たかったから、今日はこんなに頑張った
んだなって……」
「くるみ……」
「ふふ。でもそれだけ、『美味しくない』って言われたら
どうしよう、って怖かったのも本当。かれんはいつもじ
いやさんの料理を味わっているんだから、私みたいな
素人がかなうわけない。でも、私は頑張りたかった。
自分でもどうして、って思うくらい。だから『美味しい』っ
て言ってくれたかれんの笑顔が、私には最高のご褒美
なの」
満足げな微笑を浮かべたくるみは、まっすぐにかれんの
瞳を見つめてきた。かれんはそれを優しく受けとめる。
「お礼を言うのはこちらね。私でよかったら、いつだって
お相手はさせてもらうわ」
「ふふ。その言葉を後悔しないでね」
くるみは悪戯っぽくまた笑う。今日のくるみは、面白い
くらいに表情がころころと変わる。
それだけ、人間としての身体に慣れつつあるのだろう。
例えるなら、楽器のようなものかもしれないと、自身で
も複数の楽器をこなすかれんは考える。
違う楽器を演奏しても、「かれんらしさ」が出ていると、
評価されることがままあり、それが具体的にどんなもの
かは自分でわからなくても、かれんなりの個性を演奏か
ら感じ取ってくれる人はいるものだ。
ミルクの時よりも、はるかに多様な感情表現が可能に
なったくるみには、過去には目にした記憶のない、表情
や言葉遣いに時々驚かされたりもする。
だが元のミルクを知っているかれんは、その全てを愛
らしく、微笑ましいものとして受けとめられる。
根本のところで何かを伝えたいというミルク=くるみの
心持ちは変わっていないと、かれんは信じている。ただ、
表現する道具、演奏者にとっての楽器と同じ意味合いで
の肉体のかたちが異なるだけなのだ。
「――どうしたの、かれん。考えごと?」
思考に浸ってしまっていたかれんの顔を、不思議そうに
くるみが覗きこんでいた。いつの間にか自分のすぐ隣に
椅子ごと移動してきていて、息がかかるくらいにその距離
は近い。
「ご、ごめんなさい。くるみのことを考えていたの。つまり
ね――」
かれんはくるみとの距離を意識しつつも、自分の考えを
くるみに説明する。くるみは頷きながら聞いてくれた。
「――わかったかしら? もっと上手く説明出来たらいい
んだけど」
「わかるわよ。私が心を伝えたい相手が、かれんだって
ことでしょう?」
くるみはひどく真面目な口調で答える。が、答えてすぐ
に、自分が言ってしまった言葉の意味に気づいたのか、
顔を真っ赤にして下を向いてしまった。かれんの反応を
知るのが怖いらしく、視線を合わせようとしない。
かれんはテーブルの上に置かれたくるみの両手に、自
分のそれを重ねた。その瞬間、くるみの身体が震えた。
「伝わっているわよ、くるみ」
「かれん……」
囁きに、くるみはようやくに顔を上げてくれた。
「私のためにこんなに美味しい紅茶を入れてくれる人の
気持ちは、ちゃんと伝わっているから。それは私にとって
も大切なくるみにしか出来ないこと。ありがとう、くるみ」
かれんの言葉に潤んだ瞳を輝かせたくるみは、不意にか
れんに顔を寄せてくる。
「こちらこそありがとう、かれん……」
言ってかれんの右頬に、くるみはそっと口づけた。
慌てて離れていく顔が、先ほど以上に赤く染まっている。
かれんが何か言葉を返す前にくるみは立ち上がり、
「じ、じゃあ、もう一杯お茶をご馳走するわね。さっきのより
十倍美味しい味にするんだから!」
と宣言すると、かれんの返事も待たずに部屋を足早に出
ていった。
声をかける間もなく、ウェーブのかかった髪が美しく揺れ
るその背中を見送りながら、かれんは静かに息をはく。か
れんにしても、火照った顔を冷ますには、少し時間が必要
に思えた。座ったまま胸に手を当て、深呼吸を繰り返す。
けれどくるみの唇の感触を思い出すたびに、頬が高潮し
てしまうのが自分でもわかる。唇が触れた場所の頬を指で
撫でようとして、そこがあまりにも神聖な場所にも思えて、
ためらってしまう。
次にくるみと顔を合わせた時に、自分はどんな顔をすれ
ばいいのか。
かれんの自問は十数分後、部屋のドアが再びゆっくり開
かれるまで続いた――。
〈終〉
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