というのも、今でも日本のほとんどの方が、「2002年のアカデミー賞長編アニメ賞を、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』が受賞した」と思っていますよね。
でも厳密に言うと、実際にアカデミー賞を受賞したのは、日本語オリジナル版の「千と千尋の神隠し」ではなく、ピクサー・アニメーション・スタジオのジョン・ラセター氏が監修した、英語吹替版の「Spirited Away」という作品になるのではないでしょうか?
つまり、アカデミー賞受賞における評価対象には、日本語版の声優さんの演技や、それらに対する演出行為は含まれていないことになります。
アカデミーには外国語映画部門もありますが、長編アニメ部門にエントリーするには、英語に吹替する義務があるわけではなく、2004年には今敏監督の「千年女優」「東京ゴッドファーザーズ」が共に、日本語音声のままで(英語字幕付き)選考対象へのエントリーを認められています。
なので、少し前から、エントリーのための手続きを進めていると伝えられていた「サマーウォーズ」の場合はどうなるのだろうと思っていたのですけど、16日付けで出されたプレスリリースの文面によれば、「この細田守作品の提出では、Michael SinterniklaasとBrina Palenciaが主演し、Mike McFarlandがADRディレクターを務めた英語音声トラックがフィーチャーされている」と記載されていますので、FUNimationが提出し、アカデミーによる選考対象作品となったのは、日本語音声のオリジナル版「サマーウォーズ」ではなく、英語吹替版の「Summer Wars」であると判断していいと思います。
ですから、今後の経過がどうであれ、アカデミーで評価の対象になっているのは、日本の観客が知っている日本語版そのままの「サマーウォーズ」ではない、ということは理解しておく必要があるでしょう。
映像そのものに修正・削除はないと思いますが、例えば予告編で見た範囲でも、主人公の健二君が、ヒロインの夏希さんを最初の部室のシーンから、「先輩」付けではなく「Natsuki」と呼び捨てにしている、といった違いが確認出来ました。
個人的な意見を言えば、映画賞という場で、外国語映画をオリジナルの形ではなく、自国の言語に吹替えたバージョンで評価しようというのは、論外だと思います。
逆に考えて、日本の映画賞で、例えアニメーションであっても外国作品を、日本語吹替版で評価しようとしたら、賞としての権威が失われるような、失笑行為になるでしょう。
英語圏であるアメリカの映画賞が、日本語での演技を評価出来るのか?という意見もあると思いますけど、国際アニメーション協会のロサンゼルス支部が主催するアニー賞では、2003年の長編声優部門で、「千年女優」の主人公・藤原千代子を(もちろん日本語で)演じた荘司美代子さんがノミネートされた、という事実もあります。
アカデミー賞の商業的価値を利用するためには、英語吹替での応募も必要である、という考えに反対はしませんが、その英語吹替制作が、日本側のクリエイターさんの意向がきちんと理解され尊重されたものであること、可能なら直接監修してもらったものであることを、祈るばかりです。